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あきあかね
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あきあかね
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 先日までドラマの再放送をやっていて、二十年以上たっても古びない人物造形が見事で、原作を手にした。 第一巻から、国立大学の医学部という閉ざされた世界における様々な人間模様、駆け引きが展開される。 中でも、手術の才能を持ち、時に傲慢さも見せる第一外科の助教授、財前五郎の存在感は傑出している。教授となり、富と権力を手にしようと画策する財前だが、片田舎での母一人子一人の貧しい生活を思い出したり、今でも月収の三分の一以上を一人暮らしの母に送金する場面は、財前の裏の顔を見せ、単純に善悪に切り分けられない複雑さをも⇒
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⇒たらしている。 財前五郎の岳父である産婦人科医の財前又一も強烈な個性を放っている。医は仁術でなく算術と言い切り、財を成した後に娘婿を通じて名誉を得ようとする姿は一見俗物のようでいて、自身の欲望に忠実な、一種の明るさのようなものがある。 「化け物のような凄まじい執念とも、毒気ともつかぬ熱気が、財産五郎の首筋に這い込み、そのまま、体内へ吹き込むようであった。俺は才能で財前家の財力を得、財前又一は金で名誉を得ようとしている。財前五郎は、自分の周囲を凄まじい人間の欲望の渦が、音をたてて逆巻いているのを覚えた。」

12/08 23:51
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あきあかね

町医者の開業医は金はあるが権威はなく、国立大学医学部の医者は権威はあるが金はない。そうした中で、財前五郎だけでなく、誰もが欠乏を抱えており、それを埋める果てしない欲望を持つ。「白い巨塔」というタイトルについて、初めは国立大学の医学部を指していると思っていたが、読み進めるうちに、医学会全体、ひいては日本の組織全体に通じる病を表しているように思えた。 そうした富と権力の獲得競争に奔走する人びとの対極あるのが、財前五郎の同期の第一内科の里見助教授だ。当初は研究に打ち込むものの、

12/08 23:52
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あきあかね

「今、目の前で苦しみ、死んでいく病人の体にじかに触れ、診療して、その生命を守りたいという希いに駆られて」臨床に転じた。組織人としては不器用であり、青臭いと言われるかもしれないが、常に利己ではなく利他の思いで行動する数少ない登場人物であり、「白い巨塔」に取り込まれない、ヒューマニズムの最後の砦のように感じた。 「いや、僕は無理をしたり、妙な画策をしたり、 自分の良心を失ってまで教授になりたいとは思わない。自然になれれば、それは幸いなことに違いないが、なれなければ、それだけのことだよ」

12/08 23:52
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0255文字
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読書データ

プロフィール

登録日
2018/07/17(2410日経過)
記録初日
2018/10/31(2304日経過)
読んだ本
693冊(1日平均0.30冊)
読んだページ
182384ページ(1日平均79ページ)
感想・レビュー
693件(投稿率100.0%)
本棚
286棚
性別
職業
公務員
現住所
東京都
自己紹介

国内外の小説、詩、短歌、俳句など幅広く好きです。歴史や美術、社会科学にも興味があります。

最近は、辻邦生、宮沢賢治、丸谷才一、須賀敦子、藤沢周平、沢木耕太郎などをよく読んでいます。

心あたたまり、人生を豊かにしてくれるような本との出会いを、これからも大切にしていきたいです。

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