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2024年12月の読書メーターまとめ

あきあかね
読んだ本
4
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1188ページ
感想・レビュー
4
ナイス
161ナイス

2024年12月に読んだ本
4

2024年12月にナイスが最も多かった感想・レビュー

あきあかね
 先日までドラマの再放送をやっていて、二十年以上たっても古びない人物造形が見事で、原作を手にした。 第一巻から、国立大学の医学部という閉ざされた世界における様々な人間模様、駆け引きが展開される。 中でも、手術の才能を持ち、時に傲慢さも見せる第一外科の助教授、財前五郎の存在感は傑出している。教授となり、富と権力を手にしようと画策する財前だが、片田舎での母一人子一人の貧しい生活を思い出したり、今でも月収の三分の一以上を一人暮らしの母に送金する場面は、財前の裏の顔を見せ、単純に善悪に切り分けられない複雑さをも⇒
あきあかね
2024/12/08 23:52

町医者の開業医は金はあるが権威はなく、国立大学医学部の医者は権威はあるが金はない。そうした中で、財前五郎だけでなく、誰もが欠乏を抱えており、それを埋める果てしない欲望を持つ。「白い巨塔」というタイトルについて、初めは国立大学の医学部を指していると思っていたが、読み進めるうちに、医学会全体、ひいては日本の組織全体に通じる病を表しているように思えた。 そうした富と権力の獲得競争に奔走する人びとの対極あるのが、財前五郎の同期の第一内科の里見助教授だ。当初は研究に打ち込むものの、

あきあかね
2024/12/08 23:52

「今、目の前で苦しみ、死んでいく病人の体にじかに触れ、診療して、その生命を守りたいという希いに駆られて」臨床に転じた。組織人としては不器用であり、青臭いと言われるかもしれないが、常に利己ではなく利他の思いで行動する数少ない登場人物であり、「白い巨塔」に取り込まれない、ヒューマニズムの最後の砦のように感じた。 「いや、僕は無理をしたり、妙な画策をしたり、 自分の良心を失ってまで教授になりたいとは思わない。自然になれれば、それは幸いなことに違いないが、なれなければ、それだけのことだよ」

が「ナイス!」と言っています。

2024年12月の感想・レビュー一覧
4

あきあかね
 「歴史に名を残さなかったとしても、自分の生きた証を残すべく一生懸命に生き抜いた女たちー。その姿は、墓の有無や大きさとは無関係に尊いのです。」 『華岡青洲の妻』の嫁と姑の相克、『恍惚の人』の壮絶な介護。センセーショナルな主題に隠れがちだが、有吉佐和子の作品は人間の尊厳を描き出す。『恍惚の人』について、認知症によってこれまでの自分を失っていく老人と翻弄される家族を描いた作品という印象を持っていたが、老いてもなお尊厳を失わない人間の姿に光を当てようと有吉佐和子は考えていたという。⇒
あきあかね
2024/12/31 17:34

⇒『華岡青洲の妻』の妻と姑との苛烈な争いも、物語の最後、二人の墓よりも遥かに大きい華岡青洲の墓の描写を読むと、この二人はどちらも男性中心の封建的な社会の被害者であるように感じるとともに、「この小さな墓の存在を忘れるな」というメッセージを読み取った山下聖美さんの読み方に共感を覚えた。 現在にも通じる普遍的なテーマをリアルに描く、その眼差しは俯瞰的であり、人間という存在、人生への温もりを感じさせる。 一つの青い壺をめぐる、様々な人びとの人生を描いた『青い壺』も、胸の奥がじんわりと温かくなる作品だ。

あきあかね
2024/12/31 17:35

五十年ほど昔の市井の人びとのささやかな幸せは、今の読者にとっても変わらぬ魅力を持つ。たとえ高価なお金をかけなくても、便利な機器に囲まれていなくても、心持ちひとつで幸福は得られることを教えてくれる。 「孫を先に出し、自分はゆっくり湯に浸ってから、シメは自分の部屋に戻ると、悠々と布団を敷き、先刻作った枕をのせ、そこに頭を当てて寝た。耳の下で、花びらの割れる薄い音がして、甘い花の香りが、わっとシメの顔におそいかかった。 「極楽だな」 シメは呟き、間もなく健康な寝息を立てていた。シメは寝入りばなに鼾をかく。」

が「ナイス!」と言っています。
あきあかね
 映画『こんにちは、母さん』を観た時、以前は大学教授だった牧師さんが、大学を辞めた理由として、フランス文学の研究ではなく、自分が教授になるために、教授の顔色の研究ばかりするようになっていたことを挙げていたのを思い出した。 『白い巨塔』の第二巻では、国立大学医学部の教授選を巡る激しい攻防が描かれる。次期教授の座を狙う財前助教授と、財前のことを快く思わない師の東教授の推す候補との争いは熾烈を極め、実弾のばらまきやポストの提示など様々な裏工作が進められる。両陣営で過半数を取れないため、⇒
あきあかね
2024/12/24 23:06

⇒第三の勢力がキャスティングボートを握るところなどは、今の国会情勢のようだ。渦巻く欲望の中で、どこまでも純粋で美しい心を持つ里見助教授。『沈まぬ太陽』を読んだ時にも感じたが、読者は作者から、「あなたはどちらの生き方を選ぶ?」と常に問いかけられているような思いを抱くことになる。 辛勝した財前が、我が世の春といった様子で、ドイツの国際学会に向けて旅立つところで本巻は終わる。絶頂の中で、財前の受け持ちのある患者に焦点を当て、後に訪れるであろう災厄の兆しを感じさせる筋立ては巧みである。

あきあかね
2024/12/24 23:07

「財前は、華やかな注目を浴びる自分の姿を眼に浮かべ、酔うように云ったが、ケイ子は、海を隔てて瞬きはじめた淡路島の夜の灯を眺めながら、 「きれいな夜景ね、でもあの宝石のように燦く灯の中に、一つだけ不吉な光を放っている灯があるような気がするのは、なぜかしら」  ぽつりと云った。」

が「ナイス!」と言っています。
あきあかね
 「色彩の旅人の軌跡」という副題の通り、わたせせいぞうさんが八十年の自身の生涯を振り返る。終戦間際に神戸で生を受けたわたせさんは、空襲で神戸の街が壊滅する前に小倉に疎開し、小倉の街も原爆の投下目標地だったものの、前日の隣町の空襲の煙で視界不良となったため、原爆投下を免れる。こうした偶然、運命が、わたせさんの生きる歓びに溢れた優しい絵の背後にあるように思えた。 損害保険会社の営業マンとして、漫画の世界との二足のわらじを履いていたことは知っていたが、支店長としてここまでバリバリと働かれていたのは意外だった。⇒
あきあかね
2024/12/22 20:38

⇒1980年代に一世を風靡した代表作『ハートカクテル』は、都会的で、お洒落で洗練された世界である一方、実生活は遅くまでの仕事と満員電車に揺られる日々であったという。そうした、「ここにはない」願望や理想の世界であるからこそ、同じような立場にある多くの読者を惹きつけたのだろう。

が「ナイス!」と言っています。
あきあかね
 先日までドラマの再放送をやっていて、二十年以上たっても古びない人物造形が見事で、原作を手にした。 第一巻から、国立大学の医学部という閉ざされた世界における様々な人間模様、駆け引きが展開される。 中でも、手術の才能を持ち、時に傲慢さも見せる第一外科の助教授、財前五郎の存在感は傑出している。教授となり、富と権力を手にしようと画策する財前だが、片田舎での母一人子一人の貧しい生活を思い出したり、今でも月収の三分の一以上を一人暮らしの母に送金する場面は、財前の裏の顔を見せ、単純に善悪に切り分けられない複雑さをも⇒
あきあかね
2024/12/08 23:52

町医者の開業医は金はあるが権威はなく、国立大学医学部の医者は権威はあるが金はない。そうした中で、財前五郎だけでなく、誰もが欠乏を抱えており、それを埋める果てしない欲望を持つ。「白い巨塔」というタイトルについて、初めは国立大学の医学部を指していると思っていたが、読み進めるうちに、医学会全体、ひいては日本の組織全体に通じる病を表しているように思えた。 そうした富と権力の獲得競争に奔走する人びとの対極あるのが、財前五郎の同期の第一内科の里見助教授だ。当初は研究に打ち込むものの、

あきあかね
2024/12/08 23:52

「今、目の前で苦しみ、死んでいく病人の体にじかに触れ、診療して、その生命を守りたいという希いに駆られて」臨床に転じた。組織人としては不器用であり、青臭いと言われるかもしれないが、常に利己ではなく利他の思いで行動する数少ない登場人物であり、「白い巨塔」に取り込まれない、ヒューマニズムの最後の砦のように感じた。 「いや、僕は無理をしたり、妙な画策をしたり、 自分の良心を失ってまで教授になりたいとは思わない。自然になれれば、それは幸いなことに違いないが、なれなければ、それだけのことだよ」

が「ナイス!」と言っています。

ユーザーデータ

読書データ

プロフィール

登録日
2018/07/17(2390日経過)
記録初日
2018/10/31(2284日経過)
読んだ本
686冊(1日平均0.30冊)
読んだページ
180365ページ(1日平均78ページ)
感想・レビュー
686件(投稿率100.0%)
本棚
281棚
性別
職業
公務員
現住所
東京都
自己紹介

国内外の小説、詩、短歌、俳句など幅広く好きです。歴史や美術、社会科学にも興味があります。

最近は、辻邦生、宮沢賢治、丸谷才一、須賀敦子、藤沢周平、沢木耕太郎などをよく読んでいます。

心あたたまり、人生を豊かにしてくれるような本との出会いを、これからも大切にしていきたいです。

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