読み友のみなさん、３月も沢山のナイスをくださってどうもありがとうございました。３月はマンガばかりでしたが目標の一日２つの新作レビューを書く事を時間ギリギリで達成しました。旧作のＵＰが間もなく終わりますので今後は書く本数をもっと増やしていきますよ！2022年3月の読書メーター 読んだ本の数：63冊 読んだページ数：15492ページ ナイス数：57090ナイス ★先月に読んだ本一覧はこちら→ https://bookmeter.com/users/868158/summary/monthly/2022/3
梶川笙子が学校の自分のクラス７Ｒの教室へ朝早く行くとドアが開かない。続いて担任の教師・大神が来て力ずくで開けると漸く開くが教室内の床の中央に赤黒いしみが広がり男子生徒・中町が血を流して死んでいた。それを見た笙子は悲鳴を上げて失神する。続いて登校した女子・吉沢信子は笙子の悲鳴を聞いて駆けつける。教室内はがらんとしており本来あるはずの４８組の机と椅子が消えていたのである。主人公の工藤順也が登校すると友人の降旗透に中町が自殺したと教えられる。やがて地元の警察署から森警部が学校に駆け付け捜査の指揮を執るのだった。
本書は単なる学園物の枠を超えたスケールの物語で終盤に予想外のサプライズが明かされ真犯人と事件の真相が二転三転するどんでん返しが炸裂しますよ。第３部までは暗中模索でイライラする展開ですが以降は急展開で頁を繰る手が止まらなくなり一気読みしましたね。唯ミステリとしては重要な情報が後出しであるのと机の消失の理由を成立させる為に無理矢理こしらえた様な印象を受けた点がマイナスですが全て完璧にはいきませんし概ね満足です。工藤は最後に人間性を見誤りほろ苦い挫折を味わいますが、長い人生ですので挫けずに頑張って欲しいですね。
『根本の親心』景浦はシーズン終盤にチームの勝利の為にヒット狙いに徹していたが試合後に根本監督に呼ばれ今季打順を１番にしたのは打席数を増やして王選手の持つ５５本の本塁打日本記録を超えさせようとしたからだと話しＨＲを狙えと激を入れる。景浦は方針を変えてＨＲ狙いで打ち出し残り９試合で後７本まで迫り田淵さんと王さんが解説の試合で２ＨＲを打つ。景浦は最終のロッテ戦まで１本差に迫り、千葉マリンスタジアムで伊良部投手から３打席目にタイ記録の５５号を打ち最終打席に１６０キロの速球を打ってランニングＨＲで新記録を達成する！
景浦の新記録達成に王貞治氏が登場し花束で祝福して来季からチームの指揮を執ると表明する。『主役ワキ役』景虎投手は中学野球大会で２試合連続で完全試合を達成して優勝する。大虎でサチ子は、西武の満がイチローに首位打者のタイトルを奪われた悲運に涙を流していたが、その満から電話がかかり妻の洋子が妊娠したとの知らせを受けて喜ぶ。満は東京の酒の店を訪れ義兄に来年父になるんだと報告する。『王いなる野望』景浦は王監督に２軍の練習場・雁ノ巣球場に呼び出され来季は４番レフトでいって貰うと言われ、後５年一緒にやってくれと頼まれる。
金は行ったっきりで連絡すると電話は不通になっていた。彼女は懸賞応募をやめた。『サンプル』駅の階段を降りた所で黒っぽい服を着た背広の男性が化粧品のサンプルを配っていた。どうせ大した物じゃないだろうと思って見ると超高級ブランドのナイトクリームで普通サイズで二万八千円ぐらいする品だった。彼女はもらった夜に試した。翌日目が開かず鏡を覗くと顔が土偶のように腫れてヒリヒリしたので病院に駆け込んだ。クリームの会社の相談窓口に連絡すると当社ではサンプルの配布はしていないと否定された。警察に届けたが手掛かりの連絡はこない。
『帰宅』佐藤さんは宴会で飲み過ぎてしまい路上で捕まえたタクシーに乗り込み行き先を告げると眠り込んだ。爆睡していると衝撃を受け目が覚めた。車は高速を走行中で猛烈に吹き込む風を感じ運転手側の窓が全開で声をかけても返事がないので見ると運転手の顔が無かった。肩から上が潰れたパイナップルの様にぐちゃぐちゃになっていた。運転席中に血が飛び散っていた。ハンドルは自由走行状態で彼は前に乗り出し血でヌルヌルのハンドルを掴み必死で車を止めた。遺書らしきメモが見つかり、高速を運転中に窓から顔を出して標識に激突したとの事だった。
『丸石』高田公太：和田さんは近所を流れる川のほとりで丸石を拾って家に帰ると真っ暗闇で玄関の鍵がかかっていなくて点灯して居間の電灯を点けると母がいたが、すぐに母が手を伸ばし消灯した。「何で消すのぉ」再びスイッチを押すと母はおらず代わりに異様に鼻の大きい学生服の男が立っていて「ミョオオオ」と叫ぶと口から大量の血しぶきが飛び両目の中に入り激痛に襲われ意識を失った。目覚めると祖母の部屋で寝ていて「あんた家の前で寝ていて起きないから、お婆ちゃんがカミサマにお祈りしたのよ。目ん玉を明王さんに持ってかれる所だったのよ」
「もうあんな石持ってきちゃ駄目よ」と母に言われポケットに手を入れると丸石はなく祖母がいつもくれる黒飴があった。あんな悪い石捨てちゃったよ。『苦悩の名医』寺川智人：小さな病院に三沢という三十代の内科医が赴任し大勢の患者を診る事に慣れていない為に苦労し数か月後に亡くなる。泥酔の末、自宅の風呂場で溺れ死んだのだ。看護婦の高梨さんはある日処置室の前で白衣の三沢先生が左腕で指さすのを見ると待合室に蹲る老婆がいて危ない所を命が助かる。同様の事が続くが噂を聞いた患者が先生を死神呼ばわりしたのを怒鳴りつけた為に首になる。
『代々』徳光正行：女系家族に生まれた女性・坂木さんが小学校の最後の夏休みにＴ県の本家を訪れた晩に寝ているとトントンと背中を叩かれ天井を見ると「ギロッ」と光る目が次第に顔の形になって眼前に迫ってきてニヤッと口角を上げると彼女はギャーッと大声で叫んだ。両親と祖父母が駆けつけ「きちゃったのね、しょうがないわね」と言い戻っていく。翌朝起きると母親に今朝祖母が亡くなったと知らされる。通夜に続き葬式が済むと母親が話す。うちはねあの目が出てきて見ちゃうと二代前のおばあちゃんが「お役目」を終えて亡くならなきゃいけないの。
私もあなたと同じくらいの頃に経験していて、理由はわからないけどどうしたって逆らえないの、ごめんね。母親は坂木家の悲しい宿命を教えてくれた。時が過ぎ坂木さんが成人し祖父も亡くなる。坂木さんは学生だったが妊娠が発覚して母に打ち明けた。すると母は喜んでくれて、初めは渋った父も次第に初孫の誕生を楽しみになるようになった。性別を気にする両親だったが、医学的に極めて稀なケースで中々判明しない。そして遂に誕生したのは元気な男の子で皆が歓喜した。すると坂木家本家が不審火により全焼する。坂木さんは安心し彼の家に嫁ぐと言う。
８の字屋敷の３階の渡り廊下で建設会社の副社長・蜂須賀菊一郎が何者かの手でボウガンの矢に射貫かれて殺される。犯行は被害者の娘で口が利けない女性・雪絵と手話教師の美津子により偶然目撃されるが直後に襲われて気絶する。警視庁・捜査一課の速水恭三警部補、独身３５歳は部下の木下刑事と共に事件現場に乗り込み、雪絵に会った早々に一目惚れし張り切って困難な事件に挑む。恭三は複雑なトリックを考えるのは苦手で推理マニアの弟・慎二と妹・一郎（いちお）の知恵を借りながら屋敷に滞在するがまたもや間近の場所で第２の殺人が起きてしまう。
本書では名探偵が関係者一同を集めて不可能犯罪の巨匠カーの「密室講義」を引用しながら事件の謎解きを行うお馴染みの古典的な名場面が描かれていますね。まあ少し冗長で時間の浪費ですが、現場の親切な見取り図も多数ありますし、これは著者の遊び心と心得て焦らずゆっくり楽しみましょうね。結論を言いますと物理トリックは鮮やかですし、犯人の正体は予想外で完全にしてやられましたね。これは相当にイカレテいますが、独創的なアイディアですよ。そして速水警部補の恋の結末と不死身の木下刑事の活躍も読み所ですので最後までお楽しみ下さいね。
『台風一家』つくね乱蔵：不動産関連の会社で働く内田さんは顧客の梅本さんから相談を受けた。梅本氏は二世帯住宅を建て息子一家と暮らしているのだが家に関する事で息子夫婦には生まれたばかりの娘がいて何かブツブツ大人びた口調でしゃべり出す。それから怪異が始まり奥さんが仏壇の前で背後から肩を叩かれ勝手に扉が閉まる。息子は仏間で畳と天井から数えきれない程の白い手が生えるのを見る。梅本氏は居間を埋め尽くす黒い影を見る。内田さんは芦原という神主姿の専門家に連絡して件の家を見にきてもらうと彼は梅本家の前で車を停めさせて言う。
「あかん、あれはあかんで、人間が敵う相手やない。神様とかやない、もっと原始的なものや」どうにかできるかと問うと芦原は笑って「台風を動かしてくれっちゅうのと同じやで」と答え震えながら帰る。内田さんは梅本氏にあの家に住むのは止めた方がいいと話すと少し離れた別の土地に新築し以前の家は解体し土地は更地にしたという。もう一度呼ばれていくと更地に太陽光発電のパネルが敷き詰められていた。少し離れた新しい家に入ると腐った魚の匂いがし、奥さんは両足を骨折、赤ん坊は絶叫、母親は歌を歌い、彼はもう駄目だなと諦め早々に退散した。
佐藤さんは女優になるのが夢だと語ったが、その四年後に彼女は男にナイフでメッタ突きにされて殺され享年十八歳で亡くなった。そのニュースを知りホラー小説を執筆していた時にＰＣの電源を落とすと真後ろに裸の女が立っていて女の右腕の動きを感じ逃げようとして転ぶ。すぐに女は消えたが熱い経血の塊が下りてきて股の間を濡らした。その後、高熱が出て暫く後に熱は下がったが生理が十日も続き医者に診て貰うと袋状の物が出来ていた。再検査の前夜に入浴中女の脚を見て気絶した後に赤黒い血塊が浴槽の底にあり翌日病院に行くと完治していたという。
その後女の影は消え、きっと「袋」と一緒に黄泉の国へ流れてしまったのだと思う。『みんなのウサギ』吉澤有貴：小学校でウサギが飼われていてウサギのシロちゃんは皆から愛されたがある朝エサやりに行くと老衰で死んでいた。ドッジボールの試合中にへびが出て担任の若い女の先生が捕まえると生徒の前でスコップで残酷に何度も叩く。翌日に休むが再び登校すると陽気だったが逆に怖かった。夏になり担任の「かわいいウサギが来たよ」の声に行くと生徒の悲鳴があがる。担任はシロちゃんの腐敗した死骸を掘り起こしてニコニコと笑い遂に病気で退職した。
しかし続く左の時田がスローボールを流し打つと三塁へのゴロになりトリプルプレーとなりチャンスを潰す。２回裏、藤村は土方からライトへ先制ＨＲを放ち１点リードする。６回表、武蔵はバント戦法に出て２死から三塁前に転がすと時田が取って投げるがボールがホップし一塁手が取れずセーフになる。続く土方はジャストミートし三塁正面のライナーだが時田のグラブを破った打球がレフトスタンドに突き刺さり逆転２ランＨＲとなる。９回表の土方の打席で美少女が藤村に土方が目を閉じて打っていると教える。藤村はクロール投法で土方を三振に打ち取る。
左文字が時田をベンチ裏に呼び出してドスで襲い掛かるが、藤村が球を投げて左文字を阻止して助ける。９回裏１点差で先頭の時田が土方の直球を捕えてライトへ２ベースを打つ。時田は呟く。俺は藤村に負けた。藤村の親友、左文字が俺のスパイ行為を見破り殺そうとまでしてきた。それでも藤村は俺を信じ続けた。人に騙されやすいどアホウめとせせら笑っていた俺がバカだった。藤村はでかい人間だぜ。藤村は土方の投げた初球をライトへ逆転サヨナラＨＲして南波高校が初優勝する！試合後に時田が藤村に裏切りを謝罪しようとするのを左文字がきて止める。
優子さんは食事を終えて席を離れようとして妙な事に気づいた。女性は片手にグラスを持ち、もう片方の手でベーグルを食べている。しかし同時に猫を抱き続けてもいた。あれっ？手放しで猫を抱けるはずないしと思って凝視すると胸元に抱かれた猫には胴体がなかった。あるのは頭部と前足だけ。「あれは…一体何なの？」すると突然猫がフーッ！と鳴き声をあげた。そして前脚で女性の片手を引っ掻いたのだ。血に濡れた彼女の掌から砕けたグラスの破片が零れ落ちた。あれはグラスによる傷ではなく猫が引っ掻いたのよ。気分が悪くなり直ちに店を出たという。
『墓捨て』つくね乱蔵：手塚さんは飲み屋で知り合った早川という男から墓に纏わる質問を受けた。早川は故郷の田舎にいる母から永代供養で墓じまいを頼まれたとの事で墓の引っ越しと受け入れにお寺に多額のお布施が必要だと説明した。数か月後に彼は早川から自宅にすぐ来て欲しいと頼まれた。そこは荒れ果てた廃墟同然の家で早川は左腕と右足を骨折し顔面も傷だらけだった。彼は寺の了承を得ずに勝手に墓石と遺骨を持ち出して撒き散らし沼に捨てたという。それから墓石の祟りなのか悪夢を見て体が壊れ始めたといい泣くが如何ともし難く帰ったという。
泥棒が夜道を歩いていると巨大な猫が襲い掛かって来る。だが他人の目には猫が見えないのだ。泥棒は毎夜化け猫に襲われ家を出て油屋で住み込みで働くが夜に猫が来て行燈をぶつけると火が出て火事になる。男は磔の刑になるよりはと自殺を図るが入水・首吊りと何をやっても死ねない。遂に捕まり磔で竹槍で突いても死なないので首と胴と手足を切断されるがそれでも死なず、それぞれに痛いよーと叫んで苦しむ。すると化け猫が男の首を咥えて猫寺に走る。和尚がマタタビを燃やして誘き寄せたのだ。男の首も他のパーツも苦しみ続け「痛いよー」と泣き叫ぶ。
和尚は全てをまとめて読経するが何の効果もなく遂にしびれ薬を与えて墓に埋める。だが墓の下の苦しい叫び声は、しびれ薬がきれると始まり永久にやむ事をしらなかった。和尚は悟る。泥棒くんには気の毒だがお蔭で尊い実験になった。人間は死があった方がよい。不死であれば仮にメス猫の呪いを取り去ったにしても、あの泥棒くんのように永遠に苦しまねばならぬのだ。死はカミサマの最大のプレゼントかもしれないよ。全く世の中はままならぬものよと言って和尚は猫酒を捨て実験も取り止める。無駄な事だ。自然は我々に最良の生き方を与えている様だよ。
サンキューマートがあり店内は無人だった。うーんと唸り再び一本道を走ると再びサンキューマートに着いた。悪い夢を見ているのか、理解不能だった。店に入り食料を買うと店員が出てきて道を訊ねると、すぐそこですと答えた。あなた僕とさっき会ってますよねと聞くと否定したのでウソつけとブチ切れる。すると店内放送の合間に「タスケテ、サムイ」と女性の声が聞こえる。佐々木の昔の山仲間で遭難して死んだ彼女の声だった。彼はパニックになり「オレは行ったんだ、間違っていた、すまない！うわあ」と叫ぶ。「ソーダヨ、キミハワルクナカッタサ…」
「誰だ、オレはそんな事は思っていない、オレが悪かったんだ！」「クックックッ…今ノ彼女ニハ言エナイ理由ガアルンダネ？」「きさまあ誰だ！おまえは誰だ？」佐々木はこの時ハッキリと悪魔は存在すると思った。気がつくと佐々木はレジで吐いていて大量の吐瀉物の上に倒れ込んだ。パトカーと救急車が来て倒れた佐々木を連れて行った。佐々木は極度の興奮状態だったが薬物等の使用は認められず精神は正常ですぐに戻されたそうだ。先輩は帰る佐々木に影がなかったと言い佐々木はその翌日あっけなく死んだ。先輩は黙り、もう何も聞く気になれなかった。
景浦は野茂投手の１５２キロの速球を打つと高々と打ち上げ天井のスピーカーに当たってライト前に落ちる。景浦はランニングＨＲを狙って激走しホームに滑り込むが惜しくもタッチアウトとなる。だが福岡ドームのルールにより「認定天井長打」で賞金５００万円を獲得した景浦は賞金で年間予約シート５０席を買い子供達を招待してあげる事に決める。『平成の伝説』千葉ロッテマリーンズの打撃コーチに就任した中西太さんは現役時代にショートライナーが頭上を超えてＨＲになった伝説がある。景浦は福岡ドームのロッテ戦で伝説の当たりを再現して見せる。
『鷹一丸』西武の小林満はセンター中心に打ち返す打撃で打率４割６分と絶好調だった。西武球場に乗り込んだダイエー根本監督は小林シフトでショートを投手の後ろに守らせる。満は２打席シフトでアウトになり３打席目は三遊間に引っ張ると景浦が前進守備で取り一塁へ遠投してレフト前ゴロでアウトとなり満は調子を崩す。『手酌』夢の球宴で巨人の松井が景浦のもの干し竿バットを借りて打つが振り遅れて空振り三振する。景浦は広島・ギャレットと阪神・掛布の持つ３打席連続ＨＲを抜く新記録４打席連続ＨＲをサヨナラ弾で飾り松井は呆然と立ち尽くす。
妹が起きて「まだ、トンネル。えー？なんで？家出たの四時くらいだったよね？」時計を見ると午後八時過ぎの数字が表示されている。三時間以上もトンネルの中を彷徨っている事になる。まさか車の時計が狂っているのかと改めて妹に携帯で調べさせると合っていた。二時間もあれば着く場所に四時間以上かけても辿り着けていなかった。結局、温泉に着いたのは閉まる寸前で、妹は信じられないを連呼していた。実はこのトンネル、俗に言う「お化けトンネル」なのだった。『あの人の葬儀』霊能者の谷繫氏が同じく霊能者の知人の葬儀へ出席した時の事である。
彼は焼香しながら「お前いるんだろう、俺にはお前が見えるぞ、そんな所でボーッと寝てないで起きやがれ」と棺に向け念じると途端に棺の蓋が吹き飛んで死者の上半身がむくりと起き出し首がこちらへ向いた。周囲は騒然となる。老僧侶がリン棒で鐘の音を鳴らすと死者は何事もなかったかの様に元通り棺へ横たわった。谷繫氏は満足だった。それから長い時が経ち谷繁氏が亡くなった葬儀の時に本地ご住職の前で蝋燭が妙な動きを始め線香の香りが変化する。住職は谷繫氏の遊びを納骨までは許可すると心中で約束し守られたが彼は今も知人の元に現れるという。
『偶然命日』ある女性の父がうるう年の２月２９日に亡くなっており、その兄さんも同じく２月２９日に亡くなっているのだという。そして母親も五年前の同じ日付で死んで、葬式の時に聞くと親戚の中で命日が２月２９日だという人が６人もいるとわかったという。２０１６年に来られた五十代の女性が次は私だと言い、４年後に無事だったら報告しに来てあげる、あははと笑って帰る。『睨み猫』実家で飼っていた猫、毛が茶色いからチャゲが２歳の時に突然、姿が見えなくなった。近所に迷い猫の貼り紙をして探したのだが見つからず1ヶ月程で捜索を諦めた。
それから暫く経ったある夜、寝ていたら身体が動かなくなり、部屋の隅にボロボロの布切れみたいな物体が、じいっとうずくまっていた。それは変わり果てた姿のチャゲで皺だらけの眼球で恨めしそうに睨みつけていた。「チャゲ、堪忍してね。探すの止めて堪忍ね」と謝り続けると１分ほどが過ぎて急に身体が軽くなると姿が消えていた。次の日、知り合いのお坊さんに事情を話し我が家でお経をあげてもらうとチャゲは現れなくなる。だが去年、霊感のある女性に会うと「猫飼ってたけど行方不明で死んじゃったでしょ。まだ後ろで睨んでる」と言われたという。
男は江理香を連れに来た死神だった。彼女が待ってと必死に頼むと「その子が大人になるまで待ってやろう。その子が１６の誕生日にもう一度迎えにこよう。但し手ぶらで帰る訳にはいかん。手土産をもらっていくぞ」と言って姿を消す。江理香の熱は嘘の様に下がるが、朝になると飼い犬のマリーが死んでいた。江理香は今時、死神なんている訳ないじゃないと笑い２４日の夜に自宅に友人達を招いて誕生日パーティーを開く事にする。当日の夜日付の変わる５分前に部屋が真っ暗になる。蝋燭の火を灯すと部屋のドアが開いて黒衣の男が入って来る。「そんな…」
「おいで、約束どおり迎えに来た」と言って江理香を連れて立ち去る。その１０日後、江理香が友人と下宿で話す。役者の卵のヒロシに芝居をして貰い嫌で仕方なかった家を飛び出したのだと。するとドアが開いて黒衣の男が入って来る。なんだ、ヒロシ驚かさないでと江理香が言うと「先日は驚きましたよ。約束通り行ったら私そっくりの先客がいるんですから。見物させて貰い約束を１０日遅らせました。さあ、冥府行きのバスが待っているから行きましょう」と江理香の手を取る。アパートで一酸化炭素中毒、１６歳の少女死亡。友人重体の記事が新聞に載る。
それが今では一日の殆どを自宅で過ごしている。全ての原因は一体の人形だという。夫の叔母の美由紀さんには仲良く助けて貰っていたが、夫の病死により引き籠り責任を感じて衰弱死した。子供のいない美由紀さんは、おかっぱ頭の少女の市松人形を敏子と名付け我が子同然に可愛がっていたが、遺言状に「敏子を智香さんに預けて下さい」と書かれていた。彼女は人形を寝室の本棚の上に置いて寝ると何故か真夜中に目覚めてしまった。妙に薄暗いなと思ったら天井全体に広がる黒煙が見え暫くすると人形の唇に吸い込まれ消えた。彼女は朝までソファーにいた。
朝が来て着替えて顔を洗い朝食を作り娘を起こすと娘が彼女をじっと見つめて「ねえお母さん何でお人形さんおんぶしてるの」と聞いた。それから敏子が実に愛おしく我が子よりも大切な存在に思えてきた。ぼんやり敏子を見つめ気づくと昼過ぎでパートを無断欠勤してしまう。彼女は夫も娘も二の次で食事を作るのも面倒になり働かないので家計が逼迫し呆れた夫と娘は実家に帰った。智香さんは何とかしなくてはと思いながらも答が出ずにずっと敏子を撫でていた。最近夫が娘を連れて外出中にトラックと衝突し二人とも即死した為多額の保険金が入ったという。
『投げ初め打ち初め』１９９４年元旦に景浦一家は初詣に行き、それぞれに願い事をする。夏子は「もっと美人になりますように」景虎は「ダイエーでパパと一緒に野球がやれますように」景浦は「今年も１３０試合全イニングス出場出来ますように」サチ子は「みんなが健康でありますように」だった。書初めの話が出ると景虎が父に投げ初め打ち初めの勝負を挑む。共にユニホーム姿で対決し景浦は息子の球を軽々と場外ＨＲする。さらに２球を投げＨＲされた景虎は「気が変わったあ！ダイエーには行かへん！敵になっておやじを三球三振に取ったる！と叫ぶ。
景浦はシーズンオフに吉永小百合さんから自宅に百合の花束を贈られＴＶ局で対面し、他にもフジテレビのプロ野球ニュースで中井美穂ら女子アナと会います。『仰げば尊し』１０５歳の作家の武藤ワカ婆さんが福岡ドームの紅白戦の試合前に「一番レフト、景浦」のアイディアを客席に向けてマイクで発言し根本監督が本気になり実現する。景浦はオープン戦でセリーグ２年連続優勝のヤクルト野村監督の前で大きなＨＲを打ち、珠代のインタビューに「体が反射する間は現役でいますよ」と答える。久々に登場のノムさんの老けた爺さん顔がとても残念でしたね。
すると仏壇から何人もの男女の首が転がり出て満足気に笑ったといい記憶がそこから途切れたという。彼が事情を上司に報告すると何と７年前にも全く同様の事が起きていたのだという。そして一週間後に例の家に行くと西田君がいた。３度連れ戻したが彼は舞い戻ってしまい遂に彼は諦めて見捨てる。それから３年後に行くと予想通り例の部屋で西田君が火を灯しお経を唱えていたのだという。『掌』原田空：増田さんには可奈子さんという奥さんがいた。昨年の冬の夜、彼はトイレから戻って妻の手を見ると両の掌が黒く汚れていて、すぐ妻を起こして指摘した。
だが顔を近づけて見ると何と汚れがいつの間にか消えていた。妻は寝惚けていたんじゃないのと言って寝る。翌朝起きると妻が「何か起きた時から魚みたいな変な匂いがするの」と言ったが別におかしな匂いはしなかった。その後、同じような事が度々続いた。最初の頃から３ヶ月が過ぎると可奈子さんは「臭い、臭い」と言っては、しきりに手を洗うようになり一日中手を洗い続け家事もせず家が荒れた。ある朝台所に立つ妻を見て血の気が引いた。取っちゃったの。目があべこべの方向を向き、足元に血まみれの掌が二つ落ちていて片方にナイフが握られていた。
坂口さんが映画を観に行くと入口の券売機でもたつく人がいた。お金も入らずボタンも上手く押せない。焦っているようだが表情は分からない。何故なら首から上が見当たらないのだ。この人、まだ生きているつもりなのだろうか。結局首なしの人は私の後ろを通って館内に入って私の隣に座った。タダ見である。観ていたのはコメディ映画なので客席から時折くすくすと笑い声が漏れる。ふと隣を見ると首なしの人が口と思しき空間を手で押さえ、小刻みに肩を揺すっているのでウケているのだろうなと思われた。『教室の盛り塩』坂口さんの高校時代の話である。
学校前の停留所から出る帰りのバスを乗り越してしまい次発まで２時間ほどもあるので教室へ引き返した。するとギャル風の女子３人が来てコックリさんを始めた。坂口さんと友人は寒気と厭な物を感じて出て行った。翌日担任が教室に入ると「何か気持ち悪いですね」と言って盛り塩を教室の四隅全てにした。その翌日コックリさんをした女子の二人がそれぞれ事故と病気で欠席した。残る一人は霊的不感症なのかけろりとしている。放課後に男子がじゃれて遊びのつもりか盛り塩の一つを蹴り崩すと彼は翌日に失踪した。それを最後に漸く教室の変事は終息した。
『自己主張』神沼三平太：美波さんの実家ではゴールデンレトリーバーのメルを飼っていたが夜中に勝手に出て行き車に轢かれて死んだ。メルの死後１年してダックスフントを預かった夜に居間からメルの仕草の音がした。ここは自分の居場所だ、新参者には渡さないという気持ちを母は感じて微笑み自然と涙が流れた。その後も犬を預かる事があると、その度にメルの音がしたという。『ファービー』ねこや堂：１９９８年に米国で発売されたファービーは電子ペットの先駆けだった。香織さんは子供の頃に兄が買って貰ったファービーが羨ましくて仕方なかった。
兄と殴り合いの喧嘩もしたが、大きくなるにつれ興味を失い他の玩具と共に納戸にしまわれた。東日本大震災が起きた時に福島に出張中だった兄は罹災し二度と帰ってこなかった。暫く後に香織さんが寝ていると違和感を覚えるが動けずで誰かに伸し掛かられ口にガムテープが貼られていた。何者かが服に手をかけた瞬間に「てめぇ妹に何してんだぁっ！」隣の納戸から怒声がして侵入者は慌てて逃走した。「ふぁあ…ぶぃぃ」兄がふざけた時の鳴き真似がして納戸を探すとファービーに電池は入っていなかった。今ファービーは兄の遺影と共に仏壇に飾られている。
カコは大虎でヤケ酒を飲み翌日に景虎と夏の甲子園の開会式を観に行き、カコが満の事を話すと「よし、俺がカコと結婚したる！」と言います。その夜、近鉄の主砲・石井浩郎選手が大虎に来てカコにダイエー戦でＨＲを打ったらデートして下さいと申し込むと酒屋のボンが「それなら全打席三振やがな」と言い石井は翌日の試合で何と本当に４打席三振するのです。石井選手は４年後に歌手の岡村孝子さんと結婚するのですが水島先生もシャレとは言え無茶な事を書かれましたね。『奇蹟に向かって』小林満は最終戦にヒットを打ち同僚の辻選手を抜き首位に立つ。
景浦の三冠王の条件は近鉄との最終戦で４打数２安打を打つ事だった。景浦は野茂投手から初回にレフト前ヒットを打つが、その後ショートゴロとレフトライナーで２打席凡退する。運命の最終打席、野茂はコントロールを乱して３ボールとなるが４球目のストライクを景浦は逃さず強振しレフト線ギリギリに入る２ベースを打って３年連続三冠王の偉業を達成する！景浦は記念ボールを手に新潟県の恋の宿温泉に到着するが親父さんは既に亡くなっていた。親父さんは野茂ストライクを投げてくれと願い三冠王を見届けたという。景浦は親父さんのお蔭だと涙ぐむ。
雑然としたリビングの隅に赤い服を着た女の子の人形が転がっていた。やがて隣の部屋で何かが崩れた音がした。Ｔさんは気にせず話し続けるので無視すると、赤い服の人形の位置が変わって向きも正面を向いているのに気づく。顔全体で目がやたら大きくぎょろ目だった。また音がしたので「今誰かいらっしゃるのですか？」と聞くと「いや、いないよ」とＴさん。その時、人形の目玉が壁の方へ動いた。「えっ」と声をあげるとＴさんも「あっ」と言い人形の目玉がＴ氏の方を見た。柴田君は暇を告げると廊下の真ん中辺りにボロボロで焦げた人形が立っていた。
大通りでタクシーを捕まえて無事に帰れたが１時間で二千円と料金が異常に安く一体あの家がどこにあったのかさっぱりわからないという。『しっぽの話』しっぽの異様に長い胴体の倍近い長さの猫が通るのを見た瑠海子さんが女の人に「スズキユカリちゃんなの？」と聞くと「違いますよ、だってスズキユカリちゃんは死んだでしょ？」とにこやかに笑い消えた。昔の同級生に訊くと彼女は十一年前に交通事故で本当に亡くなっていたという。自分の影に尻尾が生えているのを見た男が自分にしか見えない事を知るが最近ふと気づくと２本に増えていたのだという。
幸い左腕を骨折しただけで命に別状はなかったが彼自身も事故の理由が判らないという。友人が退院後に再びファミレスへ行ってウエイトレスに聞くと別の店に場所を移して話してくれた。あの角の席に四人の暴走族風の人達が座った事があって外を大学生の男が通り馬鹿にする様に笑った。それに腹を立てた四人が外に出て大学生に殴る蹴るの乱暴をして怪我がもとで亡くなってしまったという。それから感じが暴走族風の人に良くない事が起こるという事で復讐しているんじゃないかと。友人は不良風の姿だった。噂では四人も自殺や交通事故で皆死んだという。
その後ファミレスのあの席の辺りに大型トラックが突っ込んで間もなく店じまいしたという。『怖い父』残業後に同僚と飲んで、帰りの駅で急に気分が悪くなりベンチに横になった。気づくと家の前で午前二時だった。家に入ると親父が怖い顔で睨み拳で殴りつけてきた。親父は「来るな、来るな、バカモン！」と叫び何度も殴られ意識を失う。気がつくと病院のベッドの上で妻がいた。親父に殴られたのは夢で親父は七年前に死んでいるのだ。駅のベンチで意識不明の彼が病院に運ばれ医師は奇跡の回復だという。親父が殴って死の世界から呼び戻してくれたのだ。
黒系のスーツはいいが首から上がアンバランスで、老人は巨大なマスクをつけ、黒いサングラスをかけていたのだ。爺さんが体の害や他の人への迷惑を訴え「やめておきなさい」と説教をすると後藤田君はふつふつと怒りが湧き上がり老人に逆らって拒否する。すると老人はポケットからハサミを取り出し、彼のくわえていた煙草を根元から恐ろしい早業で切断した。「なっ！？」彼は本気で激怒した。「何をするんだ、ジジイ！頭おかしいんじゃないのか！」だが老人は全く動じず「儂は肺疾患の家系でな、身内を次々と失った。息子もな。それでも止められない」
それで煙草に手を出す度に自分に罰を与える事にしたんじゃよ。見たいかね？」そう言って巨大なマスクを外した。彼は老人の顔を見て短い悲鳴をあげた。「ひぎっ」老人の顔には唇がなかった。鼻もなかった。黒い二つの穴。そして歯茎が剥き出しになっている。顔の半分が深く肉がえぐられて、まるで骸骨のようだ。自分で切り落としたのさ、罰としてな。そして今度はサングラスを取ると老人の右目は深々とえぐりとられていた。老人は恐ろしい素顔で笑い、鋭いハサミをシャキシャキと開閉し最近も「罰」に使ったらしく握り手の所に血痕が飛び散っていた。
女に茨城の町まで乗せて欲しいと頼まれ引き受けるが車が動かなくなる。三十分遅れで前を走る仲間に追いつくと「あの女が消えた！」と叫び後部座席のシートカバーがぐっしょり濡れていたといい薄気味悪いのでカバーは捨て警察に通報した。巡査部長が車を調べカバーを捨てたゴミ箱を開けると何と中から火の玉が舞い上がり物凄く驚いたという記事です。ラジオ番組で司会の笑瓶さんと原田伸郎さんが「昨日の新聞を騒がせたお化けが出たという現場に女子大生レポーターが行っています」と話すとイヤホーンに「お化けじゃないもん」と女性の声が聞こえた。
二人とも耳にし後でレポーターに聞くが私は喋っていないという。投書を紹介していると、ポクッポクッと木魚の音がする。すると放送作家が突然「頭が痛いっ！」といい充血した目で涙を流し出て行ったので二人も怖くなってスタジオを飛び出したがディレクターに怒られ呼び戻される。番組を再開すると今度はウーッ、アーッという女性の金切り声が聞こえてきた。「うわあーっ」二人は悲鳴をあげて再びスタジオから飛び出した。だが誰も信じてくれず何とか最後まで勤めて放送終了後に録音テープを確認してみると全ての奇怪な音声が録音されていたという。
近所で人が死ぬと猫を懐中に入れておくやみに出かけ死人の側で猫を出し気を吸わせると人語を解する様になった。盆踊りの頃に江戸からきた小屋芝居がかかり中沢某は妻に留守番をさせ仲間と見物にでかけた。残された妻は猫を引き寄せ「あたしだって、お芝居行きたいのにねえ」と語りかけると突然猫が口をきいた。あんなどさ回り江戸物だといっても大根ばかりさ。俺がもっと上手にやってやろうと言って猫は浄瑠璃を語り舞を舞った。妻はその巧みさにうっとりと見入った。数日して中沢某の外出中に若く美しい武士が訪ねてきた。あなたに会いにきたのだ。
はて、どちらですかと訊ねると私は猫だと言った。そういえば、あの日から猫の姿が見えない。妻は浄瑠璃のお礼という言い訳で猫と契ってしまう。そうしている内に妻の浮気が評判になったので妻は身の危険を感じ猫にもう会わぬと告げた。その翌朝、妻は喉を嚙み切られた死体となっていて中沢某は何者の仕業とも知らぬまま妻を葬った。世人は「五徳猫」の仕業であろうと語り合ったという。『黒玉（くろたま）』黒い塊のような妖怪で夜寝ていると人の足にとまり徐々に上にあがり胸の上にのっかって苦しめ顔の上で呼吸困難にさせ目を覚ますともういない。
彼女は一号棟に住んでおり、転落死した少女とは小さな頃よく遊んでいたという。九十年だに入ってからも子供の転落死や自殺が多く、祟りだっていう噂が古くからあり、あの団地は呪われているという人がいるという。二〇〇〇年代にも団地の住人が変質者に襲われて耳を刃物で切られる事件があり片脚にギブスをした人が一四階から飛び降りたそうだ。ある日の昼間に母が「人が雨みたいに何百人も空から降ってくる、どうしよう」と震え声で電話をかけてきたので駆け付けると本当に実家の真下に人が一人転落して大騒ぎになった。彼女も同じ夢を見たという。
小嶋さんに紹介された野村さんは自分には霊感があるといい「Ｋ町団地は今は住人が高齢化して少なくなっているはずだが、私には昔みたいに大勢の人で溢れているように見えるんです」と話す。二人が通っていた団地内の小学校は２００６年に閉校して特別養護老人ホームとなっているが、彼女には当時のマンモス校のまま子供がウジャウジャいるのが見え、そこにいるのは生きている人間ではないと判り昔の人みたいに着物を着ていたりモンペ姿だったりで何より全員頭からずぶ濡れで地面がズブズブなのだという。実はその土地は大正時代まで沼地だったのだ。
後に聞いた所では、彼女が話した場所は全て過去に死人が出たらしい。小学３年生の夏に近所の悪ガキのＯ君とＫ君がＩ子の可愛がっていた子猫を悪戯半分に虐めている内に残酷にも殺してしまう。その事件によりＩ子は登校拒否になり、一週間後に５人分のご飯を一度に食べたり夜に出歩き擦り傷だらけで帰ってきたりと奇行を繰り返す。そして夏祭りの夜に両手に大きな石を持つＩ子が神社の横からいきなり飛び出してきて無言でＯ君とＫ君に殴りつける事件が起きる。そう彼女は二人に殺された猫の復讐をしたに違いないのだ。猫が彼女に取り憑いたのだろう。
二人は降車して確かめたが道路にも車にも何の痕跡もなかった。二人は共に白い服の女が落ちてきたのを見ていた。二人は車に飛び乗り大慌てで発車し気づくとＫ霊園の入口へ来ていた。ふと窓の外を見たら車の横に着物姿の女の子が立っていた。Ｔさんはぎくりとしたが近所の子供かと思った。けれど女の子の足元を見た途端、厭な感じがした。一匹の黒猫が、ぴちゃぴちゃと何かを舐めている。女の子の着物から、どす黒い液体が垂れていて黒猫はそれを舐めているのだった、その時になって女の子の顔が血まみれなのに気づいた。うわっ！二人は悲鳴を上げた。
友人は猛スピードで車を走らせたが何処かで道を間違えたらしくＫ霊園に戻ってきて入り口にはまだ女の子と黒猫がいる。友人は血相を変えてアクセルを踏んだが気が付くと、またしてもＫ霊園の目へ来ていて、そんな事を三回も繰り返してから漸く我が家へ向かう道に出られた。「女の子の顔は今でもはっきり覚えています。着物の子に黒猫なんて出来過ぎで誰も信じてくれないんですけど…」とＴさんはいった。『患者の声』看護師のＹさんは前夜に亡くなったＨさんの病室で「俺のベッドがない」という声を聞き走り出す。自分が死んだ事に気づいてないのよ。
運命の３球目、すると美少女が校舎の屋上に立ち、もし藤村くんが負けたら飛び降りるといい豆タンも美少女が死んだらわても切腹するという。藤村が川で泳いだ時にヒントを得たクロール投法で投げると天王寺のバットが真っ二つにへし折られてミットに収まる。すると時田は最後の投球を放棄して藤村にエースの座を譲る。校長と理事長が藤村を投げさせる事を許さないが鬼頭は嫌なら元の暴力高校に戻すと脅して強引に認めさせる。左文字・神島・大熊は３年生なので引退となり、代わりに松下・時田・大山がレギュラーになる。しかし再び暗雲が立ち込める。
飛鳥組のヤクザが鬼頭を連れて行き刀で脅して高校野球で八百長をさせようと迫るのだ。鬼頭は逆に何やら取引を持ち掛ける。大和組は藤村に祝い金を渡して買収しようとするが球之進が気づいて止める。河内組は全国の高校選手を金で買収する工作に出る。春の選抜高校野球に南波高校と明和高校が選ばれる。そこで池畑が藤村に練習試合をやろうと持ち掛ける。３年生を含めたラストゲームが始まるが、ヤクザがホームレス達を大勢連れて見に来る。野球賭博をやって賭けさせているのだ。それを見た明和高校が試合を止めようというが、鬼頭は続行すると言う。
高校の同級生の依頼で主人公の穂柄は７年前に妊婦が自殺を遂げた事故物件のマンションに住み込み調査に赴く。九〇九号室に越してきた入居者だけでなく隣人たちも出て行き九階がまるまる無人と化していたのだ。穂柄はバイトの優馬に部屋で寝泊まりさせ室内に監視カメラを据えて自らは１階の管理人室でＰＣを監視するのだが、すぐに奇妙な少年の姿がカメラに映り始めるのだった。まあ直接的に肉体に被害が起きる事も無く表面上は平和な状態が続いて行くのですが、主人公は思わぬ面から何者かに私生活を侵食されていく不安感に神経をやられるのですね。
ネタを割らずに文章で説明するのは非常に困難ですが、物語が終わった先の未来に一体何が待ち受けているのかさっぱり判らない事が一番の恐怖ですね。著者は現状に満足せずにいろんな恐怖の可能性に挑戦して書く方だと思いますし、やや難しいので読者の好みは別れるかもしれませんが、今後とも大いに期待できる作家さんだと思いますね。ここまでまだ短い作品しか読んでいませんが、ホラーというジャンルはあまり長過ぎると間延びして良くないと思いますので、早い展開で的確にまとめるスタイルが私は好きですし、次はどんな手で来るのか楽しみですね。
隙間に腕が挟まってしまって抜けない！と夫は悲痛な声を上げた。ヒデコさんは旅館で助けを求めたが消防隊員が来た時には夫は既に溺死していた。夫の腕が抜けなかったのは腕にしていた腕時計がひっかかっていた為で、それはヒデコさんの父の形見の品で彼女は運命の皮肉な悪戯に泣き崩れたのだが…。後々分かった事でヒデコさんと結婚した男は常習の結婚詐欺師であり土地や通帳等の名義を変えて離婚と共に財産を全て奪うという犯罪を繰り返していたのだという。『犬が必要な家』つくね乱蔵：吉村さんは中古住宅を購入し直後にリフォーム工事が始まる。
途中で作業員が立て続けに事故に遭ったせいで予定より一週間遅れで完成した。命に別状はなく足首の捻挫や手首の骨折等であった。二人で家の中を見回る内に和室の押し入れを見て重苦しさを感じ「犬、犬が要る」と二人の意見が一致してペットショップでチワワを買い家に戻った。予感は当たり和室の雰囲気が変わって重苦しさが消え温もりで満たされた。二日後、夫妻は新居での暮らしを始め、その夜に友恵さんは腕によりをかけて新鮮な野菜とチワワの肉がたっぷりの鍋を作り二人で一片も残さず食べた。二人は時々犬を飼うが一度も名前を付けた事がない。
スカートに小さな紅葉の様な泥の手形が付いていた。帰り道、ベランダから手を振る森さん夫婦の足下に子供がいて中年の男性の顔をしていた。にたり、にたりと満面に笑みを浮かべ、奥さんの太腿を頻りに撫でていたという。『優しい結束』もけたろう：カーディーラーで整備士の加藤さんが五十五歳で定年退職を迎えた。愛猫家の加藤さんは寒い時期に野良猫がエンジンルームに潜り込んだ時に猫の死体処理担当だったという。最初に死体をゴミ袋に入れて保健所に連絡する事と指導され猫が可哀想でボロボロと涙を流し、それから自ら全てを引き受けたという。
加藤さんのサービスが評価され報奨金を貰うと、そのお金で自宅の庭に小さな供養塚を作って毎朝手を合わせた。やがて耳元でミャーと悲しげに鳴く猫の声がすると危険の前触れで事前に助かる様になる。彼が３２歳の夏に仕事帰りの車の運転中にフギャー！という声を聞くと目の前にダンプカーが迫った。彼は意識を失う間に黒い靄が漂うと愛猫トラと６０匹程の猫達が喰らってくれて助けられた。彼の無事を確認した両親が家に帰るとトラが二人を導き供養塚が真っ二つに割れていた。お座りをしたトラが一声「ナァーオ」と鳴き加藤さんは無事退院したという。
顔は見えず後ろ姿だけで正体不明なんだけど…ゆき子さんが立った病室の患者は数日中に必ず死ぬのだという。それからは月に一度多い月は三度のペースでゆき子さんが立ち患者さんが死んだ。Ｋさんは次第に慣れてしまいあるパターンが判ってしまう。それは十二号室→六号室→八号室→十号室→三号室→十二号室の繰り返しの「死のサイクル」で病院側が、そのパターンに合わせて患者さん達を割り振っているのが判って愕然としたという。病院側が持て余している重度の痴呆老人や寝たきり老人が死の部屋に配され確実に死ぬのだ。Ｋさんは沈黙の後に言った。
ある家族から幽霊の出る部屋にうちの爺さんを入れてくれないか金は払うからって頼まれた事で辞める決心がついたという。『硯』平山夢明：吉田の曾祖母は実家が神社で昔巫女だった関係で夢見を告げる事があり「すずりをいじるとえらいことになるぞ」と大学生の吉田に話し９２歳で亡くなった。彼は習字をしなけりゃ良いんだと思っていたが、やがて結婚し娘が出来た。車で帰る途中で娘が行方不明だと聞くと車内で「ごらあ！」と怒声がしブレーキを踏むと娘が車の前で泣く。父を驚かそうと飛び出した様だが危うく助かり座席にあった携帯が硯かと気づく。
景虎は２打席目も同じ結果だったが３打席目に大きな２ランＨＲを打つ。景虎が投手で相手を完封し２－０で勝利するが、負けた少年達は清々しい気持ちになり喜ぶ。『ＳＥＸＹ』ダイエーは１９年連続の開幕戦ビジターで西武ライオンズと対戦する。観客席で女優の吉永小百合さんが観戦する。景浦は２回表の初打席で石井投手からレフトへ今季１号ＨＲを打って４打数４安打２ＨＲ５打点の活躍で、翌日も３号ＨＲを放って気を吐く。今年のパリーグのキャッチフレーズ、セクシーな走・攻・守の活躍を魅せつけ３年連続三冠王に向けて怒涛の好スタートを切る。
『福岡ドームメモリアル１号』日本初の屋根開閉式ドーム球場の福岡ドームの初試合はダイエー－近鉄で鈴木監督は選手全員にノーサインでホームランを狙えと指示する。大振りする打者に助けられ投手戦が続くが７回裏遂に景浦が野茂投手からバットを折りながらドーム１号ＨＲを打つ。『思わぬ敵』西武の小林満はオープン戦に怪我をして出遅れたが開幕１０試合目で復帰し猛打爆発で打ちまくりダイエー戦で３安打の固め打ちをして規定打席に達し打率４割でトップに躍り出る。景浦は工藤投手からＨＲを打つ。満はＨＲを捨て首位打者は渡さんぜ義兄と呟く。
広田は頭蓋骨骨折の重体で東京の病院にヘリで運ばれていく。ホテルでは二人の女性が昨夜ホタル水路に行き帰る途中で男の子がついてきて寝室で夜中に壁を引っ掻く音を聞き男の子を見たと話す。部屋の壁に血の手形がついており霊感の強い社員・藤巻に見てもらうと「マジでやばいっすよ、ベッドの上で子供が正座して壁に手をついていますよ」という。その後、藤巻はバイク事故に遭い、松沢の父が車で事故、トラックに突っ込まれた事故で非があるのは向こうなのに相手に訴訟を起こすとごねられる。松沢は夜に記憶がなくなり気づけば海の前にいたという。
松沢が母に相談すると神社でお祓いをして貰いなさいと言われ、広田と二人で神社に出掛けて漸く落ち着いたそうです。『第五話』東京の高級住宅地に夫婦と姉妹が超して来て母と次女が最初に気味が悪いと感じたが父が強引に入居する。すると母が夜中に突然「グオオオ」と叫んで救急車で運ばれる。姉は風呂場で剃刀で手首を切った姿で発見され幸い一命を取り留める。母の症状が再発すると父が天袋に黄色い靄がかかって臭い匂いがする事を見つけて扇風機の風で外に出す。黄色い靄は全て消え隣の家に漂って行ったのだが、すぐに隣の息子が自殺したという。
「コツコツコツコツ」みんなパニックになったが音がした方には壁しかない。全員で逃げてエレベーターに乗り８階で降りると突然ガリクソンがふらつき上からめっちゃ押されているしと言い床にへたり込んだ。仲間が屋上に行き何もなかったと言い一階まで降りるとガリクソンだけがエレベーターから降りない。も～う１回八階に登ろうよ～あたしの名前は〇〇〇と女言葉で言う。「あかん、憑かれている」仲間が無理矢理に車に乗せて走るとガリクソンが突然道案内を始めた。そして遂に辿り着いた場所には一面の墓があった。「ひぃい」全員が恐怖に固まった。
『幽霊マンションに恋して』ガリクソンはそれから週四回ほどそのマンションに通って八階で背中にかかってくる霊の重みを感じ「この圧力がたまらんな」と楽しんでいた。彼の様子を心配した先輩に「おまえさぁ、絶対危ないわ、俺が紹介する霊能者に電話してみな」と言われ「そうですか、一回電話してみます」と言ってかけると霊能者が聞いてくる。君、マンションに住んでる？京都のマンションが見えるねん。あと〇〇〇という名前知ってる？あの時エレベーターで僕が呟いた名前と一緒や。その名前の女が早く電話切れと言いながら私の首を絞めてるんや。
研究室で再生すると能楽を研究する女性が、この声は能に出てくる狐憑きの台詞や抑揚と同じだという。横堀君と吉本君は山陰の「犬神もち」の家へ行って話を聞くと真夜中に布団の上にネズミに似た犬神が這いまわり、翌朝起きると布団がボロボロになっていた。家の人に「たまにある事で、あなた達あまり気に入られなかったようですね」と言われる。横堀は家に着いた時に入るのを嫌がっていたのだが数日後に下宿先のアパートで一人死んでいるのが見つかる。吉本は俺が無理矢理入れたから犬神のせいじゃねーだろうなと泣いていたが旅先で行方不明となる。
この話の真相は闇で、それからこの民俗学研究室では「憑きもの」の話はタブーになったとの事です。『遊ぶ踏切』母親が卒塔婆の置かれた踏切に花を供えて幼い息子と拝んでいると踏切に女子の幽霊が現れ息子を呼ぶと線路内に入り母の目前で列車に轢かれて死ぬ。二十年前に事故で死んだ水野加奈は当時七歳で卒塔婆に女子高生の美雪が手を合わせる。美雪が帰って一人留守番をしていると加奈の幽霊が現れ美雪は家を出て逃げ回り踏切から線路に入り列車に轢かれて死ぬ。男子高校生の竜野は卒塔婆を拝むと死ぬ事に気づき大勢の生徒を危うく事故死から救う。
亡くなったタレントの歌を歌いながら物真似なんかをしていたのだ。そうしたら突然、全員にビリビリと電気のようなものが走り金縛り状態になってしまい全員揃って動けなくなった。パニックに陥る汚いオカマ達。その内の何人かが何処かにいる筈の今は亡きタレントを拝みながら泣き叫んだ。ごめんなさい、許して。もう二度とこんな真似しません。汚いオカマを助けて。途端にふうっと金縛りは解けたという。著者にはタレントと同じ死に方をした知人の女性Ａ子がいて現場の裏で店を営む霊感があるマスターが死者をからかったりしちゃいけないよと言った。
『狐憑き』著者の故郷・岡山県の田舎で狸や狐に化かされた話が広く知られていた。祖父が隣村に行くため村境の橋を渡ろうとしたら目の前を狸が横切った。若かった祖父は幾ら歩いても歩いても向こう側に辿り着かない。橋はごく短いのにおかしいなと思った途端に自分が立ち止まっていて歩くのではなく足踏みをしていたと気付いたという。祖母は火葬場を通ると部屋の窓に青い炎が上がるのを見た。仲良しの友達の家に行くと普段は懐いている飼い犬が祖母の背後に怯えて足をガブリと噛んだという。祖母は狐が憑いたと話すが死者かもしれないと著者はいう。
ついさっきまで部屋にいたのに帰ったみたいですと伝えると「じゃ、こちらで探します」といって電話が切れた。翌日の昼過ぎに彼氏が電話をかけてきて暫く会社を休まないといけなくなったという。彼の兄が働いている途中に意識を失い病院でコロナの感染が疑われて隔離病棟へ入院となり数日前に兄と食事した彼も感染の疑いがあるので人との接触を禁じられたのだと言う。だがそれは昨日の話で彼女が彼に昨夜うちに来ていないかと聞くと呆れて否定された。だが翌々日、再び彼氏は伊藤さんの家に現れ、ダイニングでニコニコ笑い話し掛けても何も答えない。
彼女がスマホに電話すると彼氏が出て「外出なんか出きないよ」と答え部屋に戻ると消えていた。そうか、あれって彼氏の生霊なのよと思い当たり怖くなくなり毎晩出てくるようになる。だが今夜は暫く待っても彼は消えず３人に増えたのだ。伊藤さんは新たに増えた二人が元カレと元々カレの生霊だと気づく。三人の生霊達のその後は不明だという。『すねこすり 猫の鳴く部屋』杉浦さんは２回本気で自殺を試みた事があるが野良猫のミケに助けられたという。二度目の時は既に猫は死んでいたが「にゃあ」と鳴いて足元に纏わりついて自殺を止めてくれたのだ。
すると奥にいた若い男性が立ち上がり倒れている男性の背中をポンポンと叩きながら何か方言で叫び出した。その瞬間、男性の耳から体長十センチくらいの裸の男性が飛び出して店の奥へとサーッと走り去っていってしまった。男性はすぐに回復して元気になり店は普通に営業を続けたという。『妾の墓』沖縄の墓は男性の家系全てを収める為大きいのだが別に祠、お妾さんの墓があった。一族が集まり「妾の墓を壊そう」と話すと、そこからボーッという法螺貝の様な音が響き渡り子供達がバタバタと腰を抜かして倒れた。それ以来誰も件の墓には触らないという。
死体発見の事は彼に話していないのに。緑色のスーツといえば昔の局員の制服を想起させる。翌日Ｆさんはバイクで配達中に転倒事故を起こすが幸い足の打撲だけで済む。一月後に今度は激しい腹痛に襲われ病院に行くと受付の事務員から「お連れ様は付き添いですか」と聞かれるが一人である。彼は虫垂炎と診断され入院して手術を受けたが、その間に恋人の女性が他の男と付き合いだし別れ話を切り出される。彼はショックで郵便の誤配達を繰り返し「俺も山でガス自殺しよう」と考え始め、迷った末に決意して用意を整えるが何故か車のエンジンがかからない。
自分では原因が判らずディーラーに電話して修理を依頼すると今日は予約が一杯で無理だという。翌日は仮病で仕事を休み整備士に車を見てもらうと何と直ちにエンジンがかかる。彼は拍子抜けして滝に行きたい気持ちが失せた。後に占い師に話をすると「あなたは強い御先祖に守られているから悪霊も諦めたのでしょう」との事だった。だが職場の後輩が緑色のスーツを着た男が後ろを歩いていると言われると話し一月後にあの滝でガス自殺し１年後に今度は先輩が同じ道を辿り自殺してしまう。二人は俺の身代わりなのだと思えて辛くなったＦさんは局を辞めた。
『シャレとマジ』高校の頃っすね、卒業した悪い先輩たちと遊んでて、夏だったんすけど、肝試しに行こうぜってなって。うちの地元に首なし地蔵っていうのがあって行ったんです。住宅地の端に杉林があって少し盛り上がった所に石に彫られてるみたいな地蔵があって。見た目が弱いんで別に怖くねーつまんねーなって言ったら先輩が「だったらションベンしてみろ」って。それでやって蹴って帰ったら部屋にカミキリ虫が出て親に頼んで逃がしてもらったんすけど、それから毎晩二週間ぐらいずっと出て。祖父ちゃんが「おめぇ何か悪さしたんでねえのが」って。
髪切り虫だって要は坊主にして謝んなきゃなんないような事をしたんじゃねーのっていう思い付きだったみたいで、シャレっすね。んで、正直に話したら坊主にしろって言われてやったら出なくなったんすよ、カミキリ虫。地蔵には謝って清めの酒をかけて流しました。それで俺は髪が少しハゲたんですけど「ションベンかけろ」っつった先輩、事故って頭やっちゃって。そういう意味でシャレになんないすね、頭は。祖父ちゃんが「地蔵は子供の仏様だから」って、俺はガキだったんでこんなもんだったすけど、先輩成人してたんで、シャレんなんないすねマジで。
彼の周りに白い煙が映っていて、よく見ると小さな片仮名で「ワタシヨリフコウニナレ」と文字が延々と浮かんでおり全く意味不明だという。結局は何も判らず別れたが、３日後にタツヤ君が死んだ。母親により部屋の真ん中で大の字に倒れているのが発見され病院に搬送されたが死亡が確認され死因は窒息死だったという。だが遺体には何の痕跡もなく二人で親友の死を悲しむが更に５日後タツヤ君と全く同じ状況でユウスケ君も死ぬ。写真の存在を知るのは３人だけなので彼は今に自分も部屋の真ん中で大の字で窒息死するのかと怯えながら暮らしているという。
『喫茶店』牛抱せん夏：寺田さんは三十年ほど前、大阪の専門学校に通っていて本校舎が完成するまでの間は駅前のビルの一室を借りて授業が行われ、昼食は仲間と３人でビルの地下街の喫茶店で定食を食べていた。二年生の時に今まで馴染みのない酒井君に誘われ何時もの仲間と４人で喫茶店に入ると馴染みの女性店員が６人掛けの席へ案内し４人が日替わり定食を注文した後も立ったままで「もう一人のお客様も決まればお呼び下さい」と言い去る。テーブルには水とおしぼりが一つ余分に置かれ女店員は後に赤い服の女を見たと言い酒井君が駅で倒れ急死する。
すると部屋の一隅に黒っぽい影のような物が壁の後ろに隠れた気がして近くのレジ袋が倒れて事務用品店の包み紙が滑り出て来た。そうか、ステープルリムーバーだと思いだす。暫くして再び何か大事な事を忘れた気がして呪文を唱えると宙空から支払い期限が今日までの携帯電話の振り込み用紙が出てきた。彼女は気味が悪くなりもう二度とやらないと誓うのだが、十年後に彼女が結婚し、ある朝幼稚園児の娘を送迎バスまで送ろうとした時、突然に娘が「あとみよそわか」を唱え出した。どうして知ってるの？と聞くと…わかんないと答え振り向くと携帯が鳴る。
それは実家からで彼女は昨日が父の誕生日だと思い出すと母が震える声で父親が朝にトイレに入って意識を失い発見されて運ばれ今病院で亡くなったと話す。『大雪の火葬場』戸神重明：白川さんのお父さんが癌で亡くなる。彼は生前死んだら化けて出たいと娘に言い約束していた。告別式が終わり火葬場で遺体が降ろされると娘が「今誰が後ろから頭を叩いたの？」と聞き皆が否定する。続いて甥の手首に数珠が弾け飛び姪が苦しげに唸り「やくそくはまもった」と父の声でいい気を失う。白川さんは「お父さん、やり過ぎよっ、もうやめてっ！」と叫んだという。
一行が浜名湖の近くにさしかかるとヤクザ者の集団が現れる。奴らは東海組の連中で野球の試合をして勝てば東海の竜・神島をもらうと迫る。神島が応じて試合が始まるが奴らの呼んで来た審判は藤村の投げる球を全てボールと判定する。藤村がわざと緩い球を投げて打たれ満塁からホームで封殺すると審判はセーフだと言う。仕方なく大熊を投げさせ打たせて３アウトを取る。だが攻撃でも審判は明らかなくそボールをストライクと判定する。早乙女先生が審判を務めるとヤクザ者が刃物で腕を斬りつける。ヤクザの親分が「女、おめえ竜に惚れているな」という。
親分は「俺たちの勝ちさ、野郎ども、手を引け。東海の竜も今はカタなしだ。牙を抜かれて女に助けられるとは。そんな男などおれたち東海組の相手じゃないということさ」と言って子分どもを連れて立ち去る。神島は悔しい気持ちを抑えて沈黙を守り通し、一行は旅を続ける。早乙女先生が疲れを見せると神島が背負って助けヤクザに切られた傷に包帯を巻いて手当てしてやる。甲子園は次は東京でジャイアンツを相手に試合しようと考えていたが、新聞記事で夏の甲子園の優勝校が東城大武蔵高校だと知ると明日の昼めしはそっちで頂くでえーと決めるのだった。
こんにちは。調べましたら前回は１９９４年に巨人の槇原投手が達成していました。セリーグの話題ですので漫画に書かれていない可能性が高いですが一応注意しておきますね。
コメント３でもう一つ入力ミスがありました。× 行き詰る → 〇 息詰まる でした。ごめんなさいね。ついでにストーリーで書き洩らしたエピソードを紹介しますね。藤村は高校渡り鳥が成功したら鮫島からお金をもらうと約束して豆タンの目の再手術の費用にしようと考えていたのですが惜しくも全部失敗して話はパーになるのですね。
『暗転』だが景浦は帰りのバスで田淵監督に明日のスタメン、外してくれないかという。しかし翌日も４番レフト景浦でスタートし小野投手の外角直球を引っ張りにいきバットが折れるが打球はレフトスタンドへ突き刺さり早くも今期３号ＨＲとなる。だが選手交代され景浦は長野県の更埴中央病院へ行くと吉松先生から腰椎椎間関節症と診断され１か月間の戦線離脱となる。『夢をのせて』２軍でリハビリを続けて来た景浦が１月後の本拠地でのロッテ戦に復帰し牛島投手に四球・左飛・右中間２塁打の後、９回裏に抑えの河本投手から逆転サヨナラ満塁弾を打つ。
『溌溂９０番』西武の小林満は絶不調で開幕から１５打席ノーヒットが続いていた。平和台球場のダイエー－西武戦で景浦は４打数３安打１本塁打５打点の活躍で守備でも溌溂と動きファインプレーを見せる。最終回に満が代打でレフトへ大飛球を打つが景浦がスタンドにグラブを伸ばして好捕し試合後に投手の自責点を減らそうと必死だったと話す。『１．５インチのドラマ』西武球場で景浦は自身２度目の４打席連続本塁打を打ち新記録のかかる打席で今度は左翼手の満が景浦の大飛球を好捕してお返しする。満は夢の球宴で代打サヨナラ本塁打しＭＶＰに輝く。
『神社』ＰＯＮＫＥＮ：私の友人の自宅近くには神社がある。敷地はそれほど大きくないものの歴史のある神社で町ではとても大切にされている。その神社の入口には看板が掛けてあり、こう書かれている。「この神社でいたずらをした人は、目が潰れます」この看板を掛けた老女は、両目の眼球がない。『ふんじゃった』高山大豆：敷居を踏んではいけません。種田さんは何故なのか理由がわからないから疑問を持っていたが高校生までは、きちんと言いつけを守っていた。ある日、何となく敷居を踏んでみようかなと思い仏間と居間の間の敷居をぎゅっと踏んだ。
少しの間、踏み続けてみたが当然何も起こらず「ほら、なんともない」やっぱり迷信じゃないかと笑い出しそうになる。「痛っ！」突如、足の裏に激痛が走った。見ると土踏まずがぱっくりと裂け真っ赤に染まっている。それは病院で八針縫う程の傷だった。敷居をどれほど調べても、足を切るような物は何もなかった。『心鏡』寺町聖仁：桂子さんは雨の音で目覚めた。憂鬱な気持ちを映し出したような暗い朝。「こんなつまらない人生、早く終わらないかな」と思いながら、のろのろとベッドから這い出し洗面室の鏡の前に立った。鏡には何も映っていなかった。
子猫の可愛らしさを愛でていると突然、頭上から繰り出された長い竹竿に子猫が弾かれた。「あっ」と思って見ていると続いて二撃、三撃。小さな悲鳴をあげて子猫は出ていった。見上げると竹竿は天井板を通して突き出していたが吸い込まれるように消えた。だが奥様には全く見えていない様子だった。天井裏を見せて下さいと頼み脚立を借りて入り込みライトで照らすと大黒柱らしき太い柱に一枚の古い御札が貼られていて脇に昔風の装束を着けた十歳位の男の子が竹棒片手に立っていた。何代か前の当主の時代に娘の一人が動物アレルギーで酷く苦しんでいた。
思い悩んだ当主は有名な「術師」に屋敷内に動物が入り込まない呪を施し当時の「呪札」が今も機能していたのだ。男の子の正体は式神で「もうあなたはここに縛られている必要はないの」とＴさんが言いながら札を剥がすと男の子の姿が消えて、以降ペットの被害は完全になくなったという。『カレーの中辛』怪談作家のＫさんは「この話を読むと幽霊が出る」という恐ろしい注意書きのある挿話を無視した所恐ろしい体験をし骨折してしまい彼の体験を聞いた人も怪異に見舞われたらしく怪談会でＫさんが話そうとすると隣の部屋で大きな音がして止めたという。
豆タンはＲＨマイナスの希少な血液型で誰も適合しないが、藤村の祖父・球之進が駆け付け合致する。だが無情にも高齢な為に医師から無理だと判断される。そこへ阿倍野西高の投手・天王寺三郎が来て血液型が合致して輸血され豆タンの命が助かる。天王寺は採決を終えたばかりの身体で廊下に川島を捕手にして座らせ剛速球を投げ込んで甲子園ら南波のナインを驚かせる。甲子園は天王寺と練習試合をやろうと約束する。だが甲子園の投げる球を捕れるキャッチャーが誰もいないのだ。甲子園は鉛の球を美少女を相手に投げ込んで打倒・天王寺の為に猛特訓する。
甲子園は病室で目覚めた豆タンと再会するが豆タンは片目に包帯を巻いた姿で真っ暗闇で全く見えへんという。藤村は阿倍野西高との試合で左文字と神島の仲間たちに一球毎に捕手をしてもらう条件を相手にのんでもらって試合を開始する。試合開始の時刻に豆タンの包帯が外れるが全く目が見えない状態だと判る。それでも豆タンは球場に行き捕手を務める。だが豆タンの構えるミットに向けて投げる甲子園の球は全力でなくメッタ打ちをくらい大量点を奪われ日没コールドのノーゲームで終わる。すると左文字と川島の仲間達が文句を言い４人が野球部を辞める。
景浦の打球はセンターの頭上を襲い西村がフェンスに激突して倒れ込み一旦は捕球したかに見えたが落球しており二塁打となって景浦は見事に三冠王を達成する。景浦は西村に大丈夫か？と声をかけ「平井、よくやったな、名勝負だったぜ」と平井とガッチリ握手する。球史初の４５歳の三冠王にスタンドが興奮に震え、大虎では本日無料で全員で乾杯する。『冬桜』景浦がオフに浪花老友園で講演すると何とお千代さんがいて驚く。彼女は息子夫婦のせいではなく自分で選んだのだと言う。景浦は私の家でもう一度暮らしませんかと申し入れ息子夫婦の許可を取る。
景浦はサチ子と相談し義父の虎次郎に詳しい話はせずにおき、おやっさんは大喜びでお千代さんに会いに行く。『ボンと正月』ボンは宝くじの２等１０００万円に当選したと狂喜し家族に内緒で探すが見つからず大虎のゴミまで漁りに行くが見つからず嫁に言うと神棚に置いたと聞き番号を照合すると途中の番号が一つ違っていてガッカリし夜に４０℃の熱を出して寝込む。『桜子の秘密』景浦は福岡の自分が暮らす部屋の隣室に住む女・姉小路桜子がバーで働くホステスだと知る。景浦は母親と会って実は桜子は息子なのだと教えられるが珠代は未だに気づかない。
だが軽い捻挫で済んでしまい、それから中学・高校に行かなくなり家で引き籠るようになる。そんな息子の将来を悲観し責任を一人で背負ってしまい母親は自宅で首を吊ってしまう。父親はろくに家に帰ってこない。河知はカッターの刃を手首に当てて今日こそ死のうと覚悟を決める。しんだらいたいよ。母親の声が河知の口を借りて出た。こんな息子でも母親は死んでからも見捨てずにいてくれたのだとポロポロ泣き、その日から河知は自殺を止めた。紀佳さんは心が酷く病んでいた時にこの話を聞いて死ぬのを止めた。現在交際中の彼、河知大作のお蔭だという。
一方、池畑も新しい変化球を多投し全くランナーを許さない。藤村が「変化球なんて根性の曲がったヤツのやるこっちゃ」と言うと池畑は「お前はバカの一つ覚えだ。悔しかったら変化球を投げて見ろ」と言い返す。藤村は挑発に乗り変化球を投げると一球もストライクが入らず四球を連発する。藤村が一塁へ牽制球を投げると左文字が受けるが走者が送球は無理と判断し戻らず２塁へ走る。左文字はグラブを外すが藤村は一塁へ投げずに押し出し四球で２点を失う。藤村は遂に一塁へ投げ左文字が素手で捕って走者を殺すと、あゆみが来て藤村の頬を平手打ちする。
またまたすみません。コメント５の文章、池畑は藤村に新しい変化球、左打者の外側から大きく内側へ食い込む球を見せられ大きなショックを受ける。はおかしいですので、藤村は池畑に新しい変化球、左打者の外側から大きく内側へ食い込む球を見せられ大きなショックを受ける。と変更しますね。本当にごめんなさいね。
『夏ふたたび』夏の甲子園の福岡県代表は２年連続の松尾高校で主将の早見が大虎に景虎に会いに来る。彼は去年の大会で９回表に中高で初のＨＲを打ち同点とするが、その裏に投手の投げた牽制球をセンターでトンネルしサヨナラ負けとなりショックで泣く。そこに景虎がきて泣いたらアカン来年も来るんやと励ましたのだ。景虎は翌日の開会式を見ていると早見が腕を吊っているのを見て驚く。大虎からの帰りに事故に遭ったらしい。初戦で早見は最終回に２点差で負けている状況で監督の温情で代打で出る。すると相手投手が目を見て威圧され四球で歩かせる。
次打者は早見の気迫が乗り移ってまさかの奇跡の同点ＨＲを打つ。景虎は大喜びし早う高校生になりたーいと叫ぶ。『彼岸酒』大虎のおやっさんは親父の墓参りに行き景浦に三冠王を取らせてくれと頼む。続いて倉敷の蔵元まで直接行き「三冠」を買って景浦に飲ませる。『その差１厘』景浦は本塁打と打点の２部門は断トツで手中にするが、打率のみロッテの３年目の平井選手にリードされる。最後のロッテ３連戦の初戦に景浦は敬遠の球を長いバットで強引にヒットして打率トップに立つ。すると平井が出てヒットを打ち２戦目まで抜きつ抜かれつの接戦となる。
祖父と秀太は緊急搬送され３週間程で退院したが二人とも深い後遺症が残った。祖父は箸も握れなくなり秀太は決まった方角に向けて平伏し何事か呟いている。この家で暮らしていては駄目だと池内さんはアパート住まいに変えたが、つい最近のこと池内さんは自ら命を絶った。理由は不明で残された家族は再び自宅に戻ったそうだ。『唇と爪先』松下千穂さんの一つ上の姉の中学生・小百合さんが男子に恋をした。松下家には初潮を迎えるまで赤い色を身に付けてはならないというしきたりがあった。小百合さんは花火大会に口紅とマニキュアを用意して出かけた。
妹に「ちょっとだけならいいかなって。帰る時に落とすから大丈夫よね」と言い上機嫌で帰って来た。翌日。早朝から小百合さんの悲鳴に驚いた家族が寝室に飛び込むと彼女はベッドの上で身をよじって苦しんでいた。布団が血まみれで近付いた父親が小百合さんの手を持ち上げた。両手の指先が見当たらない。酷い匂いが漂ってきた。布団の上に指先らしい肉片が落ちている。腐って落ちたようだ。枕に顔を埋めていた小百合さんが、ゆっくりと上を向くと唇がなく歯が剝き出しになっていた。三日後小百合さんは病室を抜け出しビルから飛び降り自殺したという。
「久し振りじゃないか、偶然だな」と二人で大笑いし「一杯どうだ」とＪさんに誘われたが父には先約があったので「残念だな、近々改めて吞もうじゃないか」と名刺に自宅の電話番号を書いて手渡して別れた。飲んだ帰りに「しまった、あいつの電話番号を聞くのを忘れた」と気づいたが仕方ないので連絡が来るのを待つ事にした。翌朝、出勤しようとすると電話が鳴ったので出ると女性からで「Ｊの妻でございます。実は一週間前に主人が亡くなりまして遺品を整理していましたら徳光さんの電話番号を書いた名刺がありましたのでお電話いたしました」という。
生前、病床で主人は徳光さんに会いたいと申しておりましたので」父はＪの奥さんに自宅の住所を聞いて後日、家に手を合わせに行ったのだという。おかしいじゃないかと言うと父は「そんな話をしても仕方ないよ。でもあの時に一緒に飲んでおけばよかったなあ」と少し肩を落としながら言ったという。『黒い笑顔』Ｒはある地方大学に進学し田舎で一人暮らしを始めた。ある日、知らない女性に挨拶されて挨拶を返したが瞳に白目がなく真っ黒だった。その後も同じ白目のない家族に会うと自宅ポストに「幸せのお手本」という冊子が卒業まで入れられたという。
藤村の祖父は放っておけと怒り来ないが美少女がきて藤村も釈放される。美少女は川原で好きと告白するが甲子園はどうにかはぐらかし逃げ帰る。明和高校は甲子園大会の初戦で池畑が相手に１点を取られ打線が打てず苦戦する。するとスタンドに藤村が駆けつけ「池畑、がんばらんかい」と懸命に応援するが明和は１－０で惜敗する。あゆみは涙をこぼし「藤村くん、あなたの心は美し過ぎる。そんな美しい心のどこに女が住めばいいの？」と呟く。試合後にあゆみは藤村の前で「どん底の涙と贅沢な涙では女は贅沢な方を選ぶわ」と言って池畑の唇にキスをする。
藤村は「うおおお～お！」と叫び「男藤村甲子園、女ごときでくよくよするかい！」と吠える。南波高校は左文字率いる全国右翼高校生の代表と神島率いる全国番長会、そして結城翼が結成した南波高校全共斗の５人が集結して三つ巴の争いが始まる。豆タンと美少女は家で寝ている甲子園を呼びに行くと藤村はバットとボールを持って「おんどれら、待ちやがれ～」と叫んで駆け付け「サンピンにくそたれども、わいと結城のチームに順番にぶつかってこい、勝った方が大集会なり好きなようにやればええ、そのかわり負けたら出ていけ」と話し二人に了承させる。
『苦～いチョコレート』景虎は少年野球のチームで４番を任されるが先輩の太郎からガールフレンドにチョコレートをもらい俺が４番やと話したから代わってくれと頼まれる。景虎は試合の日に腹が痛いと監督に訴えると太郎が４番を打つが緊張して凡打を繰り返す。４－１でリードされた最終回に景虎が代打で２ランＨＲを打つが結局一点差で敗れ監督に不正を見抜かれて今度やったら二人とも首や！と怒られる。『春の珍事』景浦は開幕戦から４番レフトに指名されて好調が続き打率のトップを走るが、本塁打は唯１本だけでファンの爺さんがＨＲを狙えと叫ぶ。
景浦は近鉄の野茂に対し二打席連続ヒットを打ち三打席目に漸く２号ＨＲを打つと爺さんは大喜びで満足する。試合後にスコアラーから爺さんの話を聞いた景浦は１９年前にもの干し竿バットのヒントを教えてもらった元阪神タイガースの藤村富美男さんだと気づく。『新潟☘初恋の人』景浦はある青年から母の手術の日に新潟での試合後に病院に来て欲しいと書いた手紙を貰い駆け付ける。彼女は高校時代に景浦と恋人同士だったと息子に嘘をついたのだが景浦は「久し振りだね、勇気を出して」と励まし今日はＨＲを打つと約束し結局不発だったが花束を届ける。
『忌遇、あるいは鬼遇』馴染みのスナックで飲んでいるとスーツ姿の男が入店し「つい三十分前に、そこの横丁に真っ赤な車が突っ込んで自転車をはねて乗ってた人は赤い棒を持つ車の誘導係の人かな十メートル程先でぴくりとも動かないし助からねえかもしれねえなあ」とママに話す。聞いていて気分が悪くなり勘定を済ませて店を出ると背後で凄まじい金属音が響き自転車が目の前に落ちた。人身事故で真っ赤なスポーツカーと車の誘導係の人が倒れているのが見えた。何とさっき店で聞いた話と全く同じ事が起きたのだ。信じられない話で今もわけが判らない。
『一巡』小学五年生の春に楠根さんは念願の「ウサギ係」にクジ引きで選ばれたが相方がゴンザという綽名の粗暴な男子だった。彼は登校する前に近所の犬を撫で回しウサギの巣箱に手を突っ込んでワンワンと叫んだら親が怖がって赤ん坊をボリボリ齧ったと話す。ゴンザはチクったらウサギを壁に叩きつけるぞと脅す。すると「ひとめぐり」と小屋のウサギが一斉に人間そっくりの声で鳴く。それから十数年後に友人からゴンザが結婚し生まれた子供を食べて離婚したと聞きゴンザの子が生まれたのはウサギが我が子を食べてから丁度十二年後だと気づいたという。
『祖父の書き置き』Ｗ氏の祖父は習字の先生で非常に厳しい人だったが３０年前に脳梗塞を発症し、やがて認知症を患い始め黙って縁側に座る事が多くなった。だが５年が経つと突然正気を取り戻して家族を驚かせた。祖父は自ら筆を取り封筒状の半紙を３つ並べ、そこには名前が書かれておりＷ氏に神棚に納めるようにと頼むと満足したその夜に永眠した。それから二十数年Ｗ氏は故郷を離れ現在四十代で父母が亡くなり天涯孤独の身である。母の葬儀で実家に帰った折に例の封筒の中身を改めると父の名前の封筒には「六十八」母の封筒には「六十五」とあった。
よく考えると何とそれは父母の享年なのだった。祖父ちゃん、どういうつもりでこんなもん書いたんだよって。自分の名前の封筒は開けていないが何故か未だに捨てられないという。『ピヨ介の遺棄』彼が小学校の時に家で飼っていたセキセイインコのピヨ介はとても可愛い鳥だった。だが６年の夏休みにじゃれあっている時に何かの弾みで尻もちをつき潰してしまう。死骸の始末に苦しんだ彼は自宅のトイレに流し祖母にはいなくなったと言った。だが数日後にトイレからピヨ介の鳴き声が自分にだけ聞こえた。一月間聞こえた後で消えた時彼は大泣きしたという。
美少女・千曲ちあきは女性である事を胸にさらしを巻いて隠していますが、高野連にバレたらヤバイですからマネージャーでもする方がいいのですがね。彼女は甲子園に思いを寄せており、自分が朝野あゆみの代役でピエロを演じさせられたのねと気付いて傷つきます。豆タンは土下座して謝ります。１回裏、大熊が２球をあっさり空振りすると甲子園が「あほんだら、そんな球やったら幼稚園児でも打てるで」と侮辱する。大熊は頭に血が上り、うっかり長打を打ってしまい気付いて２塁で止まる。２人が倒れ４番の左文字が居合打法で打つと打球がライトを襲う！
すみません、コメント４の文章は、×冒頭 → 〇暴投が正解でした。長い文章を書くと集中力が途切れてしまいますね。次回は間違えないように気を付けますのでどうか皆さまお許し下さいね。
彼は生まれつきツキに恵まれた人間がいて過去にもナポレオンやヒトラーがいたが、この力は人間には荷が重過ぎて悲劇を招くから力を返してくださいと言うが神山は「とんでもない、そんなの嫌だ、お前なんか消えっちまえ！」と拒否すると男はいなくなる。その後も願うと望みが叶うが、隣の音楽がうるさいなと考えると隣で火事が起き悪ガキに呼び出されると懲らしめて火傷を負わせる。男女の友達から無視されたのに腹を立て二人とも死んじまえと願うと二人が車にはねられて死ぬ。神山は深く反省し首を吊り自殺するがゾロメー氏が現れて夢ですよという。
神山は力を返すと誓い朝起きるとすっかりツキに見放され雨に濡れながらも却って気分が晴れやかになるのだった。『旅人還る』男はたった一人選ばれて宇宙船に搭乗し冷凍睡眠（コールドスリープ）で宇宙へ旅立つ。彼は愛する恋人と別れ何十億年何兆年とも知れぬ眠りから覚める。人工知能チクバの世話になり目覚める度慰められてきたが、もういいと任務を解いて、ご苦労様と声を掛け最後のコールドスリープに入る。再び目覚めると宇宙船が地球に向かっているのを見て驚く。地表に着陸し外に出ると宇宙船の出発を見送る時点の彼女がいて二人は再会する。
Ｎ建築工事の着工から２か月が過ぎた或る日、久志さんを現場監督が呼んだ。彼が見せたのはタケの持ち物の砂色のリュックサックで底が赤黒く染み周囲を数匹の蠅が飛び回り甘い腐臭がする。二人は怖くて中身は見なかった。久志さんはそれからタケの様子を注意し観察していると作業中にキョロキョロと首を動かし腰を低く落とすと野生動物のように跳んだ。久志さんが近付いて見ると茶虎の猫の首を雑巾の様に捻った。久志さんがタケにリュックサックを開けさせると四つ足を突っ張った二匹の猫の死骸が入っていた。タケは「驚かせて、すみません」と謝る。
なあ、これ喰うんちゃうやんな？タケは首を振り昔お爺ちゃんに教わった悪い物から助けてくれる骨のお守りを一匹から一本作れるから社長にプレゼントしたくてと話す。三匹もいらんやろと言うと、こいつら兄弟猫だから一緒に連れて行くべきなんですよと答える。タケは刃渡り十センチ程のナイフを見せお爺ちゃんの形見ですという。お前、人間はやっとらんよな？ははまさか、でも他の動物はやりますよ、習慣なんです。悪いけどお前はここに置いとけん、頼むから帰れ！今もタケは正月に挨拶に来るといい取材するなら紹介すると言われたが著者は即断った。
甲子園は本塁寸前で倒れてタッチアウトとなる。甲子園は肩の傷の影響で投げた球を明和の打者のバットに当てられると内野手がトンネルや悪送球を繰り返して３点を奪われる。豆タンは打席でわざと死球をくらって次の回に藤村に打順を回す。最終回の南波の攻撃で２死から左文字が大熊を脅し代打に出て居合打法で打って出塁する。判定はエラーだが続く藤村が池畑の内角直球をライトへヒットして無安打試合を打ち砕きボールが外野を転々とする間に自らもホームインし２点を返す。スタンドで見守る朝野あゆみがニッコリ微笑み甲子園は豆タンと大喜びする。
すみません、コメント３は内野安打ではなく当たりそこねで記録は３塁のエラーでした。また公平に書きますと、最後の打席は藤村が左打席で内角球を強引に引っ張ろうとして右足をバッターボックスから完全にはみ出して打っていまして本当はルール上バッターアウトですが、まあ審判が何も言わずに認めていますからオマケで良しとしましょうね。まあ、それにしてもベンチ内で肩を刃物で切るなんて狂気の沙汰ですが、こういうえげつないストーリーも昔の漫画だから許されたのでしょうね。長くなってすみませんね。次からもう少し短くする様に努めますね。
だが一つだけ問題があって食料だけが足りないのだ。コンピュータにより公平な配分がなされるが生きているのがやっとというわずかな量で盗みに行こうにも体力がなく寝ているしかない。今や犯罪や戦争なんてできる奴は世界に誰一人いないのだ。『未来人の家』廃品回収業を営むエヌ氏の家にテット博士と名乗る男がやって来る。彼はタイムマシンで未来から来たと言いこの時代の品物を譲ってくれと頼み自分の時代の通貨が異なるからと未来の食住・風呂や洗濯が全自動で稼働する家を物品と交換で置いていく。博士が帰ると満ち足りた生活が送れる様になる。
だが一点だけ未来は今より一日が２０秒だけ長くなっており積もり積もって今では朝の１０時に朝食を食べる（その時点で食べないと消える）生活で外界と隔絶して暮らしているという。『ご用件は』夕食後に男が自宅で妻と共にテレビを見ていると電話がかかってくる。用件は何と奥さまを殺してさしあげますと言うのだ。馬鹿な事を言うなと怒って断るが翌日からも毎日欠かさず同じ時間に電話がかかる。終いには警察に届けるが全く信じてくれない。根気よく拒否すると遂に相手が諦める。だが数週後に同じ男が「奥さまをお願いします」と電話をかけてくる。
『これでいいんでしょ』橘百花（ひゃっか）：ペット不可のマンションで暮らす一人暮らしの女性・近江さんはふいに猫の鳴き声を聞きまあいいかと辛抱していたが、続いてベランダに干した下着に猫の小便の匂いがしてブチ切れる。隣人の幸の薄そうな女に抗議したが、その後再び被害に遭って腹が立ち管理会社に電話した。するとベランダに赤黒く染まった猫が一匹洗濯挟みで留められ干され出血して回っており「これでいいんでしょ？」と背後から女の声が聞こえた。被害届は出したが速攻で引っ越した。『死を呼ぶ夢』田辺青蛙（せいあ）：小学校の時の話。
一人で留守番していると知らないおばさんがインターホンに向かい「赤いお婆ちゃんが出てくる夢を３回見ると死にますよー」と叫んで帰る。次の日に学校に行くと３年一組の家の子ばかりが訪問を受けたとわかり、それから夢を見たという子の飼う金魚や老犬が死に、ある日元気だった校長先生が亡くなって夢のせいにされるが転校したのでその後の事は不明だという。『併走』明神ちさと：列車に乗っていると向かいに紅葉の絵を描いた客車が迫り大量のマネキンが積まれていて後で紅葉でなく掌の赤い手形だと気づく。後に大列車事故の報道で赤い手形を見る。
『おそ咲き』西武ライオンズに移籍された小林満はダイエーとのオープン戦の９回表に代打で出て片平バッティングコーチの指導で教わった一本足打法でフルスイングしてレフトへ逆転満塁ＨＲを打つ。満は１４年間、地獄を見てきた果てに「おそ咲きの分派手に咲いてやるぜ！」と吠える。『鷲は舞いおりた』ダイエーは敵地で近鉄を相手に開幕戦を迎え左のエース阿波野投手に対し同点の６回表無死走者なしで景浦を代打に送る。景浦は大ファールの後で内角のくそボールで仰け反らされるが少しも動じず冷静に３球目の同じ内角の速球をレフトへ先制ＨＲする。
『六歳六月六日』大虎のおやっさんは孫娘の夏子が６歳になった６月６日に女らしくピアノの習い事をさせようとするがサチ子は本人に全然その気がないからと言って応じない。夏子は近鉄－ダイエー戦を観に行くとファールボールをジャンプして素手で捕りにいき惜しくも落とすが兄の景虎が捕球する。おやっさんは常連客の有名画家・中島潔先生におしつけでなく自由に育てるのが大切だと説得され考えを改める。『大逆転』日ハム戦は８回表まで８－０と敗戦ムード濃厚だったが５点を返した後の景浦の満塁弾で一挙逆転し９回は景浦を捕手で守らせ勝利する。
暗い突き当りを曲がると足元に小さな老婆が壁に背を預けて座っていたのを見てギョッとした。老婆は傍らに置かれた大きな釜にしゃもじを突っ込んで飯を一心不乱に食べていた。彼は声をかけたい気持ちを抑えて道を急ぐと行列のできた割と小綺麗な店があり親子丼を注文すると美味しくて満足した。食事を終えレジに進むと若い女性店員が「あのおばあさんに話し掛けなくてよかったですね」と言った。外に出ると驚いた。廃墟の様なビルが消えていたのだ。その店の紹介頁を見ると「飯を食い続けてる婆さんに話しかけなくてよかったな」と書き込まれていた。
だが暫くすると書き込みは消えていて何の根拠もないが件の婆さんが書いたのではないかと思えたという。『瞼の母』つくね乱蔵：仲の悪い義母と静かな戦いを続けていた嫁の和香さんは、その後義母の胃ガンが判明し３週間後の死に大喜びした。だが通夜に彼女は義母の遺体を見て凍り付いた。義母が目を開いて睨んでいるのだ。彼女は瞼を抑えるが何度やっても駄目で遂に瞬間接着剤を持ってきて瞼に付けると漸く閉じた。だが、それから義母は目を閉じた姿で現れる様になる。負けるもんかと頑張る彼女。だが先月自分の目をアイスピックで突いたのだという。
「気のせいだよ、マジで電車なくなるぞ」と無理に友人の腕を引っ張ってホームに連れて行き何とか終電に間に合った。翌朝、友人が見つめていたコインロッカーから乳児の遺体が発見された。『来てください』元警察官の田辺さんという男性の話で「僕が派出所で勤務していると『お巡りさん、一緒に来てください』と呼びにきた方がいて急いで一緒についていったんです」倉庫に案内され扉を開けると呼びにきた本人がそこで首を吊って死んでいた。『滝つぼ』北海道のとある滝にテレビのロケで女性タレントが訪れた。そこは日中は観光客に人気の場所だった。
だが同時に夜になると自殺者の多い心霊スポットとしても有名だった。女性タレントは明るいキャラが売りの人気者でニコニコ笑っていたが、ロケが終わるとフラフラと滝の縁の方へ歩いて行った。滝つぼをのぞき足を前に出しかけた所でスタッフが気付き「ちょっと！何やってんの、危ないでしょ！」と後ろから抱きかかえて止めた。彼女は「今すぐに落ちなきゃって思っちゃって」とゲラゲラ笑った。『心当たり』友人と食事していると「軍服みたいなのを着た人がたくさんいるけど心当たりある？」と訊かれ沖縄旅行でガマ（防空壕）に行ったのを思い出した。
不動産屋の女性と現地に向かい先に車を降ろされて建物の２階にある事故物件の部屋へ親子３人で入ると意外にもいい部屋じゃないかと思えた。彼と母はいい感触だったが父だけは、うーんと唸って煮え切らない態度だった。すると玄関から不動産屋の女性がニコニコ笑いながら入って来た。彼女はべた褒めで絶賛し、ここに決めましょうとぐいぐい押してきて彼が一歩下がると一歩前へ出て遂に後ろの壁に追い詰められる。彼女に二の腕を掴まれもう駄目だと思った瞬間に玄関から「すみません、お待たせしました」と声がして我に返ると先程迄の女が消えていた。
父に「な、やめた方がいいだろう」と言われて部屋を改めて見直すと先程はどうしてこんな部屋がよく思えたのだろうと首を捻った。家を出て別の場所へ向かう時に先程の部屋を見上げると全く知らない女がこちらに向けて手を振っていた。『いつ死ぬの？』著者の友人で彼女と同棲している奴がいたが彼女が病気で入院する事になりどんどんやつれていき半年程で亡くなった。著者が友人を訪ねると真っ青な顔でガリガリだった。すると側に彼女が現れて「ねえ、いつ死ぬの？」と何度も聞く。彼女は著者にしか見えず救急車を呼んで友は入院し何とか命が助かる。
彼は奥方と二人住まいで「他に、どなたか…」言い終わらぬ内に目の前で襖が倒れ盛大に祭壇が崩れて遺影と骨壺が倒れ香炉から灰がこぼれ花瓶が割れてしまった。「まだいらっしゃるのですね」と奥方に尋ねると「はい、皆様が来てくれて嬉しいのだと思います」と涙ぐみながらそう答えた。帰り道で僕達は歓迎されてなかったのではないかなと話す息子にこう答えた。ああ、お前は知らなかったかな、木村さんは亡くなる前に病気で目が見えなくなっていてね家の中を歩くのもぶつかって大変だったらしいから、魂だけになっても見えないままだったのだろうよ。
『猫爺』大の猫好きの佐和子さんは十九年前に一人暮らしでキジトラのプーちゃんを飼っていた。彼女は昼は保護猫シェルターでボランティアで働き夜の仕事を始めたが或る夜甘えん坊のプーちゃんに必死で止められ行くのを止めると彼女の働くビルで火災事故が起きていた。彼女は喜んだが夜中に寝ていると重みを感じ目を開くと五十代の男の顔が浮き首から下は猫の体だった。彼女が目覚まし時計を投げると消える。その後にボランティアに来た男が猫爺そっくりで彼女に猫に乗り移って助けたのは自分だと言う。著者は火災も猫爺の仕業なのではと疑っている。
内装はリフォームされており非常に綺麗だったが引っ越し当日に浴室の壁に奇妙なものを見つけた。浴室のドアの陰になる壁面に横七十五センチ、縦八十センチもある物置みたいなものがあったのだ。拓実さんが扉を開けると中は予想以上に広くて奥行きがあり拓実さん自が中に入った。彼はその時、金井さんに「閉めるなよ、外から閉めると中から簡単に開けられないから絶対に閉めるなよ」と執拗に念を押した。金井さんは気持ちが悪くて不動産屋に塞いで欲しいと頼んだが拓実さんは塞がなくていいと言い張り後日大家が来て「このままにして欲しい」と断る。
金井さんは仕方なく諦めたが、扉の中からヒューッヒューッと風が鳴るような音が漏れ出て来た。それから拓実さんの様子がおかしくなり帰宅後に浴室に行くとあの中に入っていて居心地がいいのだと言って笑う。金井さんが仕事が遅れ深夜に帰宅して浴室に行くと拓実さんがまた入っていてヘラヘラ笑った。彼女は腹を立て「そんなに好きなら朝まで入ってたら！」と言い扉を閉じると暫く無言で開けると何と無人だった。翌日彼に電話すると「同じ事をしてやるから、お前も入れ」と言い家に帰らなくなり電話の度に同じ事を繰り返し背後でヒューッと音が鳴る。
実業家の田宮弥三郎がドイツの建築を模して建てた金雀枝荘にドイツ人の妻エリザベートが住んだのは２年程で故国へ帰国したとされ大正十一年の夏に管理人夫婦の心中事件が起きて息子のみが生き残った。そして１９８９年のクリスマスに田宮弥三郎の娘・茉里杏奴の産んだ４人の子供の子孫達５人が屋敷に訪れ後日、管理人の男と共に完璧に封印された屋敷内で死体となって見つかる。現場に残された指紋から６人は「狼と七ひきの子やぎ」の通りの場所で互いに殺し合ったと警察に推測された。そして翌年の夏に男女６人が事件の謎を解明すべく屋敷を訪れる。
男女の４人までは弥三郎のひ孫だが、友人の女性・美江は幽霊が見える人でもう一人は通りすがりのフリーライターで全員で過去の事件の分析を議論する内に更に惨劇が起きるのだった。本書には幽霊の目撃の場面も出てきて興味の中心ではないですが現実と幻想の融合が何の違和感もなく上手に図られていますね。見立て殺人の必然性と密室殺人の解明もスッキリとして素晴らしいですし、何よりも陰惨な大量殺人に絡む旧家の怨念のドラマが愛憎と狂気に満ちており一昔前の本格ミステリーの興奮を甦らせてくれて古風な探偵小説の良さを心から堪能しましたね。
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夢追い人００９さん、いつもありがとうございます。
jeltongさん、今後ともよろしくお願いしますね。