今月の PICK UP レビュー

2021年

3

今月のPICK UP レビューは、
村上春樹特集!

村上春樹作品に寄せられた、感想・レビューを紹介!
次に読みたい本を見つける参考に、ぜひチェックしてみてください。

風の歌を聴け

1970年の夏。デビュー作で『鼠三部作』のはじまり

風の歌を聴け

この本に感じたのは、どれだけ言葉を尽くしても、一人の人間を表現するには足りないという事実だ。

好きなもの、痛みを伴う過去、日々大切にしている感覚、いくら正直に包み隠さず書き連ねたところで、ぽっかりとした空洞が広がるばかり。鮮烈な言葉で自分を表現しながら、言葉の限界を見せつけてくるような、皮肉と絶望。言葉でも、身体でも、人間はわかりあえない。それなのに、単純にわかりあえない、では終わらず、空洞を想像で補完した結果、「嘘つき」の言葉が放たれる。どうしたって孤独は埋められず、人間はどこまでもひとりぼっちだ。

アフターダーク

「村上作品らしからぬ1冊」とも評される1冊

アフターダーク

酷く現実的でありながら、それでいて奇妙にも夢心地。とにかく筋書きだけを追っていては掴めるものが少ない難解な小説。

読者に暗示をかけるような脚本的な文章、闇夜のなかで更にコントラストを形成する暴力性など、深く読み込めば相当に面白い作品なのは間違いない。限られた舞台、限られた登場人物で大都市の闇黒を表現する筆力は凄まじい。しかし、これまで触れて来た村上作品のなかで最もとっつきにくい小説だとも思った。

読んでいてなんとなくドン・デリーロ、特に『ポイント・オメガ』を思い出した。書かれたのはこちらが先だが。

スプートニクの恋人

この世の物とは思えない奇妙な恋の物語

スプートニクの恋人

するするとして滑らかな言葉の流れに身をまかせるように読む。

年上の女性に恋をしてしまったすみれ、すみれを好きな僕。25歳のある日をきっかけにあちら側とこちら側に分かれてしまったミュウ。消え去ったすみれはどこへ。ときおり、モーツァルトの歌曲『すみれ』が軽やかに聴こえてくる。読んでいるとすみれと僕の恋する心情の内をゆるゆると泳いでいるような不思議な感覚になる。

いつも思うけれど著者の文章は音楽的だな。理解を超えて感覚に訴えかけてくる独特な読み心地だった。

1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編

多方面からの刺激に溢れた村上ワールド

1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編

それぞれの生い立ちが明らかになるに連れて、青豆と天吾のストーリーは重なりを増していく。

壊れてしまった親子関係や、愛とは言えないセックスの形が物語の陰影を重いものにする。偶然では説明のつかない、見えない何かに導かれていくような展開から目が離せない。

一人称単数

短篇小説は、ひとつの世界のたくさんの切り口だ

一人称単数

極めて個人的な小説、なのに物語の中にぐいぐいと引き込まれて目の前で彼らの会話を聞いているような錯覚を起こす。

わかりやすくはないけれど読むのは難しくない。ちゃんと想像させてくれるし、その意味について考えさせてくれる。だから「村上春樹」を読みたくなるのだと思う。全部面白かった。品川猿、どこかにいるのかな。

一人称単数
一人称単数
羊をめぐる冒険

新しい文学の扉をひらいた代表作長編

羊をめぐる冒険

最高に面白い。結局色々な物を失った僕が最後の最後で泣いた所では、僕の中で渦巻いていた喪失への思いがやっと表に出た気がして、逆に安心した。

物語を前に進めるキーのガールフレンドが気になる。彼女の耳も、羊と同じように一種の超パワーを持った物だと思う。違いはその力を統制下に置けるか否かということだろうと思った。そう考えると、「時間」も人間の自由意志が抗えない超パワーのひとつなのか?また、作中の所々で、後の作品に出てくるモチーフが登場する気がする。

もっと深掘りしたい場面が沢山だが、理解が追いつかず悔しい。

ページTOPへ戻る

過去ページ

2023年
2022年
2021年
2020年