
加藤シゲアキ、これが新たな代表作。
オルタネート
料理、音楽、そして最良の相手を探す事。3人各々の青春がオルタネートというマッチングアプリを通して引き寄せられ、文化祭の日に大きく動き出す。
アイドルの小説と侮る事なかれ。変な略語を並べ、SNSを駆使する今の高校生も、恋に悩み自分を見つめるあの頃の私と本質は何ら変わらない事に気付かされる。学生時代は楽しかった反面、見えない出口を求めて一番藻掻いていた頃の自分と重なり、青い思いに浸る。
心模様の表現はあまりにストレートで少々稚拙とも取れるが、そこは高校生の青春物語。意図していたとしたら・・今後の作品に期待が広がる

“共同台所”が舞台の大人気シリーズ、ついに完結!
東京すみっこごはん レシピノートは永遠に (光文社文庫)
こんなにも温かい食卓があるだろうか。一つのレシピノートから作られ続けた数々の料理の味で、ここに集まる人たちの絆は更に深まり、血縁がなくてもそれ以上の強い関係性を作り出している。
シリーズ全て読むことでより涙なくしては読めない5冊目。多くの人間関係から楓が成長していく物語であるが、そこで出てくる料理の味が持つ懐かしさや伝統は、永遠のものだと思う。素敵な話が多く詰まった今回はまさに一気読みしないと終われない最終章だった。
人を思いやる『愛』こそがどんなメニューを作るにしても最高の調味料である事を、心に刻みたい。

おかえり、ハルヒ! 超待望の最新刊、ここに登場!
涼宮ハルヒの直観 (角川スニーカー文庫)
20代後半~30代前半のオタクにとってはほとんど呪いと言っていい涼宮ハルヒシリーズ9年半ぶりの新刊。
その筋のオタクしかわからんだろうというミステリ談義から始まる鶴屋さんの挑戦がメインで、日常の謎ジャンルとして良く練り上げられた一編。一見シリーズっぽくないようにも感じたが、改めて考えるとハルヒはミステリ的構造を多く含んでいるし、ミステリ談義の円熟っぷりをみると、谷川流は元々その畑の人なんだろうなと。
とにかく原作者本人の動かすSOS団に高揚したし、書きっぷりも衰えておらず、新キャラも登場。今後に期待しかない。

「刑務所に入りたい!」その理由とは?
一橋桐子(76)の犯罪日記
夫も子供もいない76歳のパート清掃員・一橋桐子は、同居していた親友のトモを亡くし喪失感に苛まれていた。二人で暮らしていた家の家賃が払えず引っ越したいが、保証人のあてもなく途方に暮れる…。
タイトルだけ見ると稀代の悪女のクライムノベルかと想像するが、孤独な老女が抱える苦悩や困難・侘しさなどが描かれていて、なんだかそれがとてもリアルでいつか迎える老後に不安を覚える読書だった。ある意味犯罪小説よりも私は怖さを感じた。

華文青春本格ミステリの新たなる傑作
文学少女対数学少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ミステリ書きの陸秋槎と数学の才を持つ韓采蘆、二人の女子高生による本格推理談義と数学談義が折り重なる華文青春ミステリ小説。
こういった論理遊びは好み。さらに推理小説論も詰まっていてなるほどと。中身は犯人あてゲーム的な作中作を通して、本格ミステリ小説の不完全性を数学の理論に当てはめながら思考する展開。秋槎のセリフはそのまま著者の推理作家としての苦悩でもあり、本作はその壁をぶち破ろうという試みに感じられる。それもある意味青春かも。
どの篇も終わり方に解放感があって、束縛されないミステリの楽しさを再確認できた。

思春期の心模様を繊細に描き出す連作短編集
教室に並んだ背表紙
多感な女子中学生の心情がヒシヒシと伝わってきた。学校で自分のグループ内の立ち位置や居場所の確保に気を使う毎日。些細なことでグループから弾き出されイジメや無視の対象になってしまう恐怖がリアルに描かれている。彼女たちに図書室という逃げ場所や信頼できる司書がいて本当に良かった。
誰かの顔色を伺う毎日よりも、孤独でもいいから本当に好きなものや打ち込めるものを見つけて欲しいと願った。そうすれは自然と仲間も得られる。「同じものを好きになって感想を語り合うときって、本当に幸せな時間なんだよ」しおりの言葉に賛同した。

現代を映し出した、書き下ろし傑作
赤い砂 (文春文庫)
作者デビュー作品「いつか、虹の向こうへ」の前に描かれた作品。
ウィルスの種類は違えど、まさに今の時代に読むことで心に訴えてくるものが多く重い。忍び寄る感染の恐怖に戦きながらも真相を明らかにし原因を速やかに排除しなければ人々は救われない。若き刑事が感染で亡くなった親友の為真相を暴く為に自らの刑事の立ち位置さえ意に介さず突き進む姿は胸に響くものがあり作品にのめり込んでいく。
自らも感染しているかも知れない事で取ったラストの行動。結末は読者に預けた形だが私は救いの無い終わり方は望まない。今の時代もそう願いたいから。

ミステリ界のレジェンドが贈る、青春ミステリ
たかが殺人じゃないか (昭和24年の推理小説)
88歳の著者が戦後を描いた本格ミステリー。昭和24年の高校生というと私の祖父母世代になるが、同級生と友情や恋心を育んでいく姿は本質的には現代と変わらない位瑞々しくて、なんだか不思議な気持ちになった。
ミステリーとしての密室・解体殺人の二つの謎はやや難がありながらも、青春小説としての側面や著者だからこそ描ける戦後の描写が作品自体を魅力的にしていて、読み終えた後も深い余韻が残った。