
R-18文学賞大賞受賞した著者デビュー作
夜空に泳ぐチョコレートグラミー
こんな優しい騙し方を仕掛けるなんて反則だ。泣いてしまったじゃない。
辛く、傷つき、息苦しく、もがきながら生きている。そんな彼女たちの心に、そっと寄り添う誰かがいる。どこで、誰と、どう生きるか。選択できる場合もそうでない場合もある。でも、どちらにしても、不器用だけど、迷いながらだけど、出会いに救われる人たちがいて、一歩前へ踏み出す勇気をもらえる。
あたたかくて、心地よい。とてもとても素敵な作品だった。

妖しくも切ない連作奇譚
ぎょらん
人は死にゆく時、様々な思いを「ぎょらん」と呼ばれる赤い小玉に残すという。
本作は、自死した親友の「ぎょらん」を口にしたことで、引きこもりになった30歳の主人公を軸に、遺された者たちの魂の贖罪を描く短編集だ。大事な人に先立たれた時、遺された者は後悔に苛まれ、死者の思いを知りたいと願う。なぜなら赦しが欲しいから、願いが死者に届いていたのか確認したいから。
本作に登場する人物たちはみな生き方に迷いを抱えている。彼らは喪失と正面から向き合うことで、それぞれの迷いに折り合いをつけてゆくのだろう。巧みな構成が光る作品。

一軒の家にまつわる五つの家族の物語
うつくしが丘の不幸の家
ある家が舞台の5つの短編集。
時系列が見えてきた後のエピローグには最後のピースが嵌まった時のような爽快感を覚えた。どれも町田さんらしい温かい眼差しに感動を覚えるが2話と4話が印象的。
同じ方向を見ながらも別々なものを見ていた夫婦。「夢ってとても暴力的だと思うの」と過去の自分を許せない信子さん。家という入れ物で囲われた家族。細い糸を編みながら、時々絡んでも時間をかけてゆっくりほどき、新しい糸を手繰り寄せ、より一層太く強いものにしていく。幸せを作るのはいつだって自分自身なのだと改めて考えさせられる素晴らしい一冊。

コンビニを舞台に繰り広げられる心温まるお仕事小説
コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店― (新潮文庫nex)
コンビニ、テンダネス門司港こがね村店を舞台にした短編集。
これまでとは少し違うテイストだけど、町田さんのほっこり心をあたためてくれる作風はそのままに。門司港のレトロな風景を思い出しながら読んだ。
こんな風に苦しい時や困った時でも、行けば誰かがいてくれる場所、そっと見守ってくれる場所が近くにあったらどんなに安心できるだろう。店長兄弟はもちろん、働いている人や地域の人たちとの絆も良かった。気配りがあって欲しい言葉をさりげなくくれる店長、愛されるのも納得。近くにこのお店があったら、私もきっと通い詰めたくなるだろうな。

2021年本屋大賞受賞作!
52ヘルツのクジラたち
人間の愚かで、だけどそれ以上に尊い姿が描かれた胸に迫る感動の物語。他のクジラには聞こえない52ヘルツという周波数で鳴く「最も孤独なクジラ」が世界のどこかにいるという。
心に傷を負い、孤独を知り、諦めと絶望を抱えた女性と少年がその「孤独なクジラ」と共鳴しあう。…例えその声が誰にも聞こえないとしても、伝わることをただ願うだけじゃなく、伝えようとする勇気が明日を変える。もしかしたら、どこかでその孤独な声に気付く人が居るかも知れない。それは救ってくれたあなたであって、今度は私でありたい。
辛い、でも温かい素敵な一冊。