
絶望と再生のミステリー
海神
フィクションだけどノンフィクション。東日本大震災からの復旧活動に乗っかり国からの支援金を掠め取る連中とその被害に遭う人々の物語だ。
こういうワルが横行していた話は実際に耳にするし、連中の口車に乗せられてお金を手にして捕まってしまった者もいた。震災直後・数年後・現在という3つの年度から複数人の視点で騒動を追い、そこに現れる人々それぞれのドラマが描かれる。
犯人のみならず登場する人達の生き様や運命までもが均等に並立している点が、一気呵成のドライブ感が持ち味だった従前の作品とはひと味違う作風。今回も面白かった!

少年死刑囚の脱獄488日を追う
正体
脱獄した少年死刑囚・鏑木慶一の懸賞金が上がっていくほど『逃げ切って』と『正当な真実を』の狭間でドキドキしながらページめくる手が止まらない。
何故彼が?が頭から離れない。遠藤雄一や那須隆士、袴田勲、久間道慧、そして桜井翔司の傍で・・もっと言えば事件現場の埼玉のあの家や、警察や法廷、拘置所に私の意識は彼と共に居た。何という孤独、何という恐怖・・潜伏の終わりがこの形は酷過ぎる。
無辜の少年の名誉を回復する為に関わり合った者たちが立ち上がるが、そこに彼はいない。染井さん、一気に読んだ。面白かったです。お薦めです。

痛快群像エンタメ
正義の申し子
ユーチューバー純VS悪徳請求業者鉄平さらに女子高生、読み進むうちにいったい誰が主人公で誰が正義なのか分からなくなってくるが、マスクを被ると豹変する純とワルだけどイケメンで変な正義感を持ち合わせている鉄平、二人がなかなか愛すべきキャラに思えてくる。
後半の手に汗握る展開にどうやって乗り込むのかとページを捲る手が止まらなかった。今時の事件も絡めて最近よくあるビックリするどんでん返しはないがスッキリ爽快のエンタメでした。二人の今後が気になります。

最先端の社会派サスペンス
震える天秤
ジャーナリストとしてすべてを公表し、法の裁きを求めるべきか、それとも・・。読後、私自身だったらどうかと自問した。
スクープ・名声・金をとるか、それとも見ざる聞かざる言わざるを貫くのか、良心との葛藤に揺れた。コンビニに高齢者の運転する車が突っ込んだ映像は何度が目にしている。よくある高齢ドライバーに関する話かと思ったが、それだけではなかった。
小さな水たまりに足を浸けたら、そこは思いもかけずに深く渦巻いた汚泥があり、あっというまに首まで浸かり、すでに抜け出せない。そんなイメージであり、タイトルも秀逸だった。

戦慄のノワールサスペンス
悪い夏
そこいらのホラー小説が尻尾を巻いて逃げ出すくらいにこの作品で描かれている世界は恐ろしい。
生活保護という制度が現実である以上は、この作品中の世界と同様の世界も現実にあるだろうということが恐ろしい。改めて怖さにも色々なものがあるなと痛感。そして登場人物に対する見方がどんどん変わるのが面白い作品だった。佐々木や宮田はまともかと思いきや終盤ではとんでもないことになるし、単なる下衆野郎かと思った山田が終盤で意外にいい奴に感じられたり。
ジャンル分けが難しいが、とにかく引き込まれる作品なのは間違いない。