
見えない星が、人生の幸せを教えてくれる
オオルリ流星群
秘められた恋心に葛藤するもの、自分の夢と愛する人との間で心揺れるもの。45歳になり自分の人生を振り返るもの。新しい道を切り開こうとするもの。自分の道が見つけられずもがき苦しむもの。青春時代の懐かしい仲間達と出会い天文台を作るという目標に向かい協力してゆくうちに隠された過去が、取り返しのつかない真実が見え隠れする。
伊与原さんの持ち味を生かした理系の知識と優しさの融合。思わず夜空の星々を見上げたくなるような、そしていろんな感情があふれ出しそうになるような作品でした。

4人の直木賞作家と、YOASOBIが奇跡のコラボレーション!
はじめての
「はじめて」をモチーフに、YOASOBIの楽曲の元ネタとして書かれたアンソロジー。
どの作品もSFやファンタジーの要素が入っているのがYOASOBIっぽいなぁと思う。また純粋な作品として見て、4作どれも作者の本領が充分に発揮された力作であることが素晴らしい。
特に辻村作品ではその感動的な展開に思わず涙し、森作品では微笑ましさに笑顔のまま最後まで読み進んでしまった。島本作品の哲学的世界観や宮部作品の力強さと優しさの書かれ方なども心地よく、本を読み慣れた人から読書初心者まで、誰にでも薦められる素敵な一冊でした。

そこは、人も物語も再生する本屋さん
ミュゲ書房
読むのが止められず一気読みでした。後半は目尻に涙を溜めながら。
1人の作家が著した作品を、編集者が見い出し、改稿し、本としての形を整え、流通にのせる。その裏にあった挫折や絶望、再会、転機、妨害を経て成功する過程を、架空のものと分かりつつ読者として心から応援していました。
元編集者の宮本が再生させたミュゲ書房が、彼だけではなく脇で支える人々によってより魅力ある書店になりA市に根付いてゆく様の気持ちの良いこと。身近にこんな書店がぜひ欲しいものです。あぁ、それよりもまずは私はこの本を職場や知人に広めなくては。

第166回芥川賞受賞!気鋭の実力派作家、新境地の傑作
ブラックボックス
現代社会の閉塞感や息苦しさが主人公サクマを通じて描かれる。
サクマは社会の負け組と言える境遇だが、彼が感じている焦燥感は、いわゆる勝ち組含めて誰もが持っている。それが閾値を超えた時、精神疾患やアルコール、ネットへの現実逃避など人によって異なり、サクマはそれが暴力だった、と言うだけの違いである。
今の日本では、ちょっとしたきっかけで普通の生活から簡単に下層に落ち、一度そうなると這い上がるのは非常に難しい。そういう意味では、今読むべき作品なのだろう。少なくとも自分の中の不安はあぶり出されるはずである。

密室づくしの謎を、密室のスペシャリストが鮮やかに解決!
密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック
密室好きの密室好きによる密室好きのための作品。密室愛に溢れた作品。とにかく密室に始まり密室に終わる。
トンデモトリックだとしてもアンフェアぎりぎりだとしてもいいんです。人物描写もホワイダニットもいらない。これはただひたすらに密室殺人への渾身の愛がつまっているのだから。

これがただの悪夢ならば、目をさませば済むことなのに
春のこわいもの
もしもカメラの映像のように、自分の目に映る世界が他人から見た視点に切り替わったら、そこには何が映し出されているのだろう。
自分が見ている真実が、他人には全く異なるもので、目を背けたくなるかもしれない。パンデミック直前の東京で、平穏な日常が悪夢に変わる瞬間に遭遇した6人の男女の物語。不穏な空気が著者の美しい文章で綴られる。周囲と彼らとのすれ違いに絶望感があって、世界から唯一人取り残されたような怖さを感じた。
今立っている場所にも、隣り合わせで深い闇は広がっているのかもしれない。

公共図書館が贈る空前絶後のエンターテイメント
100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集
司書あるあるの「覚え間違いタイトル」を面白おかしく紹介する~だけでなく、レファレンスについての説明や利用促進を狙う。厳選90タイトルの覚え違いはさすがに笑えるもの、判明させた司書の力量に関心するものなど、どれも面白い。
数字の間違いや色の名違い多し。助詞が違うと検索にでないので、ひらがなで入れるか、キーワードで入れるとヒットする。「みやけん」を宮沢賢治と判別するのは大変だなぁ。「清涼院流水」のウィキに「清涼飲料水とは異なります」があるのは思わず確認した、笑った▽レファ協、お世話になってます。

愛するものの喪失と再生を描く、感動の物語
新しい星
静かに幕が開き下りていくような感覚だった。そう、私は彼らの一生の断片しか観ることができないからだ。
この劇場で彼らは、長い人生の大きな岐路に立たされていたのではないだろうか。「普通」という曖昧な概念に翻弄され、呪縛に囚われている姿は辛い。苦楽を共にした朋友は、表面的ではなくどこかで気持ちが通じ合う。一人じゃないっていいな。たとえ手の届かない存在であったとしても。
『明日死ぬかのように生きよ。永遠に生きるかのように学べ』。との賢人の言葉を、しみじみ噛みしめる。仲間たちと、再生を試みる若者たちの姿勢に感じ入った。

外界から隔絶された町で、19年前に何が起きたのか
誰かがこの町で
とある瀟洒なミュータウンで起きた殺人事件と20年ほど前に起きた一家失踪事件。この二つの事件が絡み合っていく。この街、怖すぎます。
街の安心安全をモットーに過剰で異常な住民同士の繋がりで地域の安心安全のためには手段は選ばない。それが当たり前で普通だと思って、誰も疑いを持たない。持っていても排除されるのが怖いのか?大きな声、多数の声に従っていれば自分の身は安全かもしれないけれど、疑問を持たなくなったら危険。日本特有と言ってもいい、同調圧力、忖度、自己保身。自分自身にもそのような面が絶対にある。