
著者の原点とも言える青春ミステリ長編!
栞と噓の季節
文章を読んでいるだけで嬉しくなってしまう稀有なミステリ作家の最新作はこれまた妬ましいくらいに巧みで、仕掛けを別にしても抜群に面白い小説に仕上がっていました。
事件は少々いかついものではありますが、謎はいつも通り小粒なものの、見せ方が圧倒的に巧みで鮮烈な印象として残ります。小癪な男子二人の物語からゲストに女子が一人加わって青春小説の風味が強くなりましたがやはりビターな味わいは健在で、一筋縄ではいかない昨今の米澤穂信作品。
読書好きにはおさえておいて頂きたい一冊。個人的に、気は早いがこの物語は映像で見てみたい。

揺れる心を優しく包み、あたたかな共感で満たす傑作長編
自転しながら公転する
ぐるぐると、自分も人も環境も生活も回って、見える景色はその時の巡り合わせで全部違う。少しのきっかけで光が射すこともあれば、やっと追いついた幸福とすれ違うこともある。「自転しながら公転する」。
恋人との関係、職場の揉め事、親の病気とか友だちへの嫉妬とか…本当に小さい小さい世界の話がずっと描かれているのに、この宇宙観を具に再現した傑作だった。都も貫一も、登場人物は登場人物じゃない、キャラクターじゃない。なんというか、真理に満ちた一冊で、そしてとにかく読むのが面白かった。
どの言葉もどの文章もごくごくと飲み込めた。

ぬか床でつながる、やさしい家族小説
今夜、ぬか漬けスナックで
これは読むぬか漬けだ。人生のしょっぱさも深みも味わえる1冊。
小豆島の小さなスナックを舞台にした、ままならない親子のハートフル物語。
それぞれに秘めた深刻な問題が、小気味よいセリフの応酬と、キャラ立ちした登場人物のおかげで、明るくサバサバ楽しめた。まるでぬか漬けと共に醗酵するかのような、深みを増す人間模様がとても味わい深い。上手い。自分で言っちゃう。
人間も自然もお料理もバッチリ映てる。映像化すると良いなー。

色とりどりの涙が織りなす連作短編集
大人は泣かないと思っていた
大人だって泣きたい時はある。泣くのを堪えず、素直に気持ちを表現していいんだ。強がらず弱さを見せていいんだ…。っと思わせてくれる心の拠り所になってくれるような連作短編。
外見では見えない内面の強さや弱さが、よく伝わってきます。家族、隣人、職場、幼馴染みなど、ごく身近な人間関係、何処にでもあるような問題が描かれていて、親近感の湧くお話に思えました。
「遠くを見過ぎて、目の前にあることをないがしろにしないように。」の言葉が印象的です。素敵なラストにしばし余韻に浸りました。

2022年ノーベル文学賞受賞!
嫉妬/事件
恐ろしさに直面した思いになる。率直に、簡潔に綴られた文体だからこそ、その裏に蠢く複雑さが…読んでいるこちら側の内部から突き出してきた。
「事件」はフランスにおいて違法だった時代の中絶が綴られている…トイレに駆け込み、太ももの間のタイルを見ながら、弾き出された胎児の描写…この本の筆者流に正直に書くと、私は中絶は残虐なことなのではないかと思えてしまった。権利や平等には公平な立場でいると思っていたにも関わらず…結局、私も安全圏にいたに過ぎなかった。
まんまと引きずり出されてしまった愚かな読み手だと突きつけられた。

心揺さぶる辻堂ゆめの新たな代表作、遂に誕生!
君といた日の続き
娘を亡くした父…もうこれだけで、娘を持つバカ父親である自分にとって点数が付け辛くなる話…その上タイムスリップとサスペンス要素が上手く配合されているので全く飽きずに楽しめた。
譲の娘への想いは共感することばかりだったし、自身の思い出と重なって何度も胸がキュンとなる。何より、ちぃ子の健気さが可愛いい!ミステリとしては中盤で真相が読めてしまうが、作品の質を損なうものではない。
80年代のネタもシミジミ懐かしんだりクスクス笑ったりできて、筆力の高さを改めて感じたし、中年男の心情や昭和の匂いを表現できる辻堂さんに拍手!

脳天撃ち抜く怒濤の犯罪巨編、堂々開幕。
プリンシパル
読了後、しばし放心状態。圧倒的なエネルギーを放つ落雷のような衝撃。凶気に満ちた傑作と呼ぶに相応しい至高の一冊。
終戦後の日本社会を覆う闇の世界の住人たちによる血で血を洗うような残虐の闘争劇。決して逃れることのできない汚れた血の呪縛に囚われたプリンシパルが暗黒の世界を乱舞する。
夥しいまでの憎悪、怨念、そして死。闇をも呑み込む壮絶な生き様の果てに迎えた先には驚愕の結末が・・・