
第166回直木賞候補作!超弩級のデビュー長編
同志少女よ、敵を撃て
なんて優しくて力強い本なんだろう。おそらくここ数年で読んだ本で最高の一冊だと思う。
復讐って、戦時下における地獄では必要悪なのかも知れない。復讐の力が生きる理由を与えてくれるのならば、絶望から死を選ぶことより尊いことなのかな。復讐が憎しみを生み、憎しみが復讐を駆り立てる。たとえその繰り返しの先に明るい未来がないと分かっていたとしても….でも違った。そうじゃなかった。彼女たちが教えてくれる。
どんなに理不尽な時代であろうと、生きる力を与えてくれるのは希望。この本を読むことができて本当に良かった。

奇妙なガラスの尖塔で起こる連続殺人!
硝子の塔の殺人
古今東西の本格ミステリへの深い造詣と敬愛を感じさせる、オマージュてんこ盛りの作品。
本格ミステリの蘊蓄をこれでもかと詰め込みながら、現代的でオリジナリティもある新しさを感じる作品。これは絶対何かまだあるぞという予感を終始感じさせながらも、終盤の展開は全く予想できませんでした。
ぞくぞくと忍び寄るような得体のしれない恐怖におびえつつも、そうきたかー!という驚きはやはり快感でもあります。見事な意欲作でした。

ミステリ界の新鋭がおくる地獄の恋愛小説短編集
愛じゃないならこれは何
互いに思い合い親密な関係の男女が居るのに、そこにある関係は誰もが思い描く「愛」ではなかった。
単に異常な愛ではなく、互いに相手に求めていたモノが違うだけなのが辛い。片方に愛があっても、もう片方は少し違う感情を持っている。みんな「恋人」「推しとファン」「プラトニックなエモい関係」「親友」「運命の相手」など理想を抱え、その為に多大な犠牲を払い見返りを求め、時に裏切られることも。
斜線堂先生の長編作品は、エモさの瞬間風速が強いが全体としては少しだけ物足りなく感じていたけれど、短編だとそのエモさが濃縮されていた。

作家生活20周年超の集大成となる、一大エンターテインメント長編
ペッパーズ・ゴースト
伊坂さんらしい軽やかさと理不尽さ。
家族がある事件に巻き込まれ、亡くなってしまったら…。やりきれない思いは人によってはあらぬ方向へ行ってしまう。そんな読者の辛い思いを緩和してくれるのは魅力的な登場人物だ。
少しだけ未来が見える檀先生の奮闘する姿。ネコジゴハンターのアメショーとロシアンブルの軽妙なやりとり。そして檀先生のお母さん。伊坂作品に度々登場する私の大好きなあっけらかんとした女性。あの緑色の車もちらっと登場して嬉しくなった。やきもきしたりスカッとしたり。今回も伊坂ワールドを楽しませてもらった。

二度読み必至! 仕掛けに満ちた傑作連作短篇
赤と青とエスキース
最高です、の一冊。自然と心揺さぶられて、自然と涙がこぼれた。
メルボルンから始まる誰もの人生の一ページは誰もの心にさりげなく寄り添う優しさ。そこに赤、青、白を巧く溶け込ませ描いているのが印象的。赤鬼と青鬼の話が好きでたまらない。大人ならではの抱える心情の溶け合いがたまらない。
この物語の要が赤と青とで描かれたエスキースならば、この作品はまさに青山さんが言葉だけで紡ぎ描いたエスキース。予感が確信へ…読み手の心に一枚の輝く色彩の絵がしっかりと浮かび上がるかのような瞬間は涙溢れ、最高です、としか言葉が浮かばない。

あるガラス工房で繰り広げられる、ある兄弟の物語
ガラスの海を渡る舟
なんて繊細でいて力強い物語だろう。愛に満ち溢れている。
祖父から受け継いだガラス工房で働く兄妹。兄はコミュニケーションをとるのが苦手。妹とは正反対で衝突も絶えない。しかし、ある出来事が起きる。兄の道が妹の羽衣子を全力で守る姿は純粋で美しかった。少しずつ2人の距離感が縮まって理解し合えていくところも素敵だ。
個性という言葉が持て囃される時代。しかし、言葉だけが一人歩きしている感じがどこか漂っている。最近、この手の小説を読むことも増えたと十把一絡げにするのは少々雑だが、自分は自分でいたいと強く思える物語だった。