今月の PICK UP レビュー

2021年

4

読書メーターユーザーおすすめの本に寄せられた、感想・レビューを紹介!

思わず読んでみたくなる感想・レビューが勢揃い。
次に読みたい本を見つける参考に、ぜひチェックしてみてください。

かか

痛切な愛と自立を描き切った、デビュー小説

かか

冒頭 浴槽の中を泳ぐ金魚の描写から 心を鷲掴みにされてしまった。

お母さんを愛して愛して憎んで。母の様に母を愛する。これほどの愛があるかな?最後の一文は断末魔のようだった。これからうーちゃんが何ものにも縛られず うーちゃんらしく生きて欲しいと強く願う。

かか
かか
革命前夜 (文春文庫)

革命と音楽が紡ぎだす歴史エンターテイメント

革命前夜 (文春文庫)

演奏家はなぜ命を賭けてまでも音楽を奏で、聴衆はなぜ音楽を求めるだろう。その答えが全て書かれているように思った。

言葉に出来ない想いを音で表現する。それが人々の心の琴線に触れた時、思いもよらない力を発揮するのだ。それは皮肉にも時として政治的象徴となってしまう事もあるが、反面一つの国を大きく変える事も出来る。ドイツが東西に分かれていた激動の時代で流れる音楽は、静かで水の様なのに底に秘めた熱は信じられない位熱く感じた。

音楽は万人には不要かも知れないが、絶対に絶やしてはならない光であると改めて確信した作品だった。

旅する練習

コロナ禍での旅を描いたロードノベル

旅する練習

何という結末…。あまりのことに暫く呆然とするしかなかった。しかし思い返せば途中確かに感じたのだ、後半の数ページ、叔父の語る文言に突如決意のような力強さが宿るのを…。

コロナ禍の休校時、小説家の叔父と、サッカーをしているもうすぐ中学生の姪・亜美が歩いて旅をする。その土地の歴史や鳥たちが多く登場する川沿いの風景描写、サッカーのことや屈託のない自然体の亜美の様子、叔父の思いで綴られていくその旅は、何気ない一瞬一瞬が煌めく宝物のようだ。また叔父と姪という間柄の距離感もいい。読み終えてから蘇ってくる情景に心打たれた。

旅する練習
旅する練習
心淋し川

生きる喜びと生きる哀しみが織りなす、時代小説

心淋し川

淀んだ空気を纏う流れのないどぶ川、心淋し川。その川の両岸、心町に住む訳あり者たちを描く味わい深い短編集。

西條さんの描く人や町は生きている。人のどうしようもない部分を切り取り、ここぞというところで切々と語り掛ける。綺麗なもの、正しいものだけじゃない、それでも人は愛おしい。そんな人を慈しむ心で溢れていた。

現代は良くも悪くも他人に無関心、人生に対して潔癖なのかもしれない。間違うから人、感情があってこそ人。過去は聞かない、泣いている人を慰め飽きたら離れて井戸端会議する。そんな町の人々の優しい大雑把さが好きだった。

心淋し川
心淋し川
ワンダフル・ライフ

現代社会の歪みを書き続けてきた著者渾身の長編小説

ワンダフル・ライフ

社会基盤が痛んできたときに「弱い者の死ぬ権利」を強調するか「弱いまま生きる権利」を補強するか。どうしたい?と穏やかにしかしこちらの目を見て問う作品。

退院した大柄な家人が自宅玄関の階段も登れないとわかった時の「まいったね」という気持ち。避難勧告が出されたら動けない老人を「どうすんだ~」という困惑。いろいろ思いを重ねて読めた。

在宅介護に拘って疲弊する者。胎児の障害に怯える者。「存在に慣れてほしい」と思いつつ自分の姿を見せることへの不安を抱く者。被介護者は異物なのかな?その立場は容易に反転するのに。力作。

サード・キッチン

あふれだした思いと言葉の数々が胸を揺さぶる感動作

サード・キッチン

表紙の絵がいいな。いろんな肌の色をした若者が、世界の料理を食べている。物語の最後に、主人公ナオミが次期料理長に選ばれたサード・キッチンの、未来の様子かな。

ここに至るまでのナオミの米国留学の日々は重苦しいものだった。「無知も無関心も差別」と指摘され、友人たちの背負っている悩みにも触れ、歴史や政治や宗教などを考えるようになるナオミの姿を追いながら、ずっと「あなたはどうなの?」と問われ続けているようだった。韓国人のジウンと、同じ絵画が好きだとわかったシーンに涙。乗り越えようとする若者たちにエールを送りたい。

コロナと潜水服

愛と奇想の奥田マジックが光るファンタジー短編集

コロナと潜水服

オカルトやホラーもこの作者にかかると、たちまちドリームストーリーとなる。

肩たたきで窓際へ追いやられた男、野球選手との結婚を望む女、妻に浮気された男、コロナに感染したと恐怖におののく男、得体の知れない不思議な力を借りて、まさかの大どんでん返しが起こる。中でも中古車を購入した男の物語は怖くもあり、切なくもあり、最後は温かさまで感じた秀作。

人生何度となく選択を迫られ決断し、成功も失敗もしながら生きて行く中、ひょっとして自覚がないだけで私たちはこんな姿の見えない力に導かれているのかもしれない。

累々

人間の多面性を切り取る、たくらみに満ちた連作短編集

累々

読み終えた瞬間、ぞわりと冷たいものが背中を撫でていった。「恋愛」がテーマの連作短編集。一見バラバラに見える5つの物語がかちり、とハマったとき松井玲奈という作家の底知れなさに飲み込まれてしまいそうになる。

二十三歳という若さで恋人からプロポーズされた小夜。すぐには返事ができず、戸惑いと苛立ちが募っていく。女性は相対する人によってたくさんの顔を使い分けていて、自分が見ているのはほんの一部だということに改めて気付かされる。

鋭く抉ってくる言葉の強さと弱さが、女性という生き物の複雑さを表しているようだった。

累々
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