
芥川賞受賞!心をざわつかせる、仕事+食べもの+恋愛小説
おいしいごはんが食べられますように
人と人との合わない感じや歪で脆い人間関係を、それぞれの食の趣向と絡めて描く。
良くも悪くもまっすぐで敵の多い押尾。仕事も人付き合いもそつなくこなすのに本音はドロドロで中途半端な二谷。しかしそれらに増して芦川さんの描き方が秀逸。悪意のない健気さはこんなにもタチが悪いのか。
自分は誰のように生きたいか。それは永遠の課題のように思えるし、ひょっとしたら人間はこの3人の持つ要素によっておよそ構成されるのかもしれない。そう感じるほど、3人それぞれに共感し、それぞれに嫌悪した。真綿で首を絞められるような読後感に唸った。

第16回小学館ライトノベル大賞にて、最高賞である大賞を受賞
わたしはあなたの涙になりたい
全身が塩に変わって崩れていく奇病「塩化病」。その病で母親を亡くした少年と天才ピアノ奏者である少女との出会いの物語。
あらすじを読んだだけで「難病で命を落とすヒロイン」という手垢の付きまくったストーリーを想像して、正直読むのを躊躇っていたくらいなのだが、今年一番レベルでボコボコに泣かされて撃沈した。
展開そのものは予想通りとは言えるが、史実を交えた重厚な舞台設定と美しい風景描写が印象的。情報量の多い作品ながら読みやすく綺麗なストーリーに仕立て上げられている。似たような作品は数あれど間違いなく心に残る名作。

映画の“魔法”に、人生を賭けた2人の女性の物語
スタッフロール
まさに1本の映画を見終えたような読了感。専門的な用語が多用されていることもあって、想像しながら読むところが多かったからか、読んだというより観た気分になった。
CGは凄い技術だな~くらいにしか思っていなかったから、これから映画を見る視点が拡がりそう。『魅了するために本物を偽物にする。』という言葉に成程、と思った。証を得ることは厳しい世界に居るマチルダ達には凄い達成感と喜びなんだろうな。スタッフロールと「おまけ映像」が頭の中で流れる良いラストでした。

"肉体から言葉を絞り出そうともがく魂を描いた、デビュー作
N/A
生理が嫌でそれを止めるために食事を取らない高校2年生・松井まどか。優しさと気遣いの言葉に苛立ち、肉体から言葉を絞り出そうともがく魂を描く青春小説。
拒食症と勘違いされ見当違いのアドバイスにイライラしたり、理想の「かけがえのない他人」を探して相手とのズレに失望したり、型にはめようとする無理解な周囲に絶望するまどか。
けれどそんな彼女自身も不安定で自意識過剰で、自分のことや友人、元カノのことも何も分かっていなかったと跳ね返ってくる展開はなかなか痛かったですが、生々しく描かれる彼女の渇望がとても印象的な物語でした。

話題沸騰!二度読み不可避の新感覚ミステリ
#真相をお話しします
近隣トラブル、マッチングアプリ売春、不妊治療、リモート飲み会、ユーチューバー。どれも今最旬の設定の中で起こるバカバカしい程の事が発端の5つの殺人事件。
真実を追ううちに、どれも「えっ?!」ってなってしまうどんでん返しの真相がゾワゾワと心の底に恐怖を残す。特に1話目は、伏線を拾い集め読み解いたつもりが、最後にバーンとひっくり返され、なるほどなぁ~。そういう仕掛けならば、こちらも本腰を入れて…っと気が付いたら5話目の結末の恐ろしさに息を呑む。いとも簡単に殺人をやってのけるところに現代社会の病巣を感じてブルブル

重度障害者の妻と約30年寄り添う著者が紡ぐ、渾身の連作短編集
ウェルカム・ホーム!
特別養護老人ホーム「まほろば園」を舞台に新米介護士・大森康介が奮闘する成長物語。
とりあえずの職場として働き始めた康介は「当惑を超えて、脱力。ひたすら脱力」の毎日。指導係の鈴子先輩に助けられながら、初めての夜勤、初めての看取りと経験を積むことに。入居者さんから教わったことで仕事をする喜びを覚えた康介。
とりあえずじゃなくて、誇りをもてる職場として自信をもって立派な介護士になってほしいです。介護する人、介護される人のいろいろな想いが伝わってきて勉強になりました。

ふたつの時代を「カレー」がつなぐ!絶品“からうま"長編小説
カレーの時間
威圧的で差別的で時代錯誤、どうしても好きになれない祖父と共に暮らすことになった孫の桐矢は、女系家族に生まれ消極的で潔癖系で虫嫌い。
絶対合わんやんストレスやん!そんなふたりがカレーを通じて少しずつ近づく。『カレーの時間』に流れるゆったりとした平穏な空気…そうかそういう事だったのかと最後に納得。
その人の物語はその人にしか語れない。語ったところで理解を求めるべきでもない。では…誰かのその言動の全てに背景があるならば?どうせ分からない、ではなく、対話を。自分が取るべき対応を決めるのは、知ってからでも遅くない。

「ルパンの娘」シリーズ著者横関大が送る、現代の忍者活劇
忍者に結婚は難しい
伊賀と甲賀、消えたはずのライバル忍者一族は、令和の今も人知れず暗躍していた。古き伝統を守りつつ郵便ネットワークを牛耳る大組織・伊賀と現代の武器を使いこなす少数精鋭の実力派集団・甲賀として。
互いに相手がライバル組織の忍者と知らず結婚してしまった悟郎と蛍。トイレ問題や食の好みの違いなど日常の問題と、組織の仕事。その落差と忍者としての在り方の違いにグイグイ読まされる。
連絡係とやりとりしながら1人で任務に向かう蛍がかっこよくて、つい甲賀贔屓で読んでしまった。宇良くんの力の抜け具合が良かった。

累計部数55万部突破の「死神」シリーズ
死神と天使の円舞曲
犬と猫の姿に変えて人間社会に留まった2匹の優しい死神のレオとクロ。登場人物がどんな病に伏せようと、どんな事件に巻きこまれようと、最後は温かい気持になれるからこのシリーズは安心して心配できる。
子どもの切なる思いを利用して悪に導く後半も、ほら、やっぱり、スカッと解決。レオもクロも愚かな人間たちを蔑みながら、でも深くかかわった人間の親友からもらった名前を誇らしげに語るシーンには、やはり温かい気持ちにさせられます。

本屋大賞翻訳部門2位の『自由研究には向かない殺人』続編!
優等生は探偵に向かない
前作の殺人事件から数ヶ月。高校生のピップは友人から失踪した兄の捜索依頼を引き受け、SNSを駆使して事件に迫っていくシリーズ第二弾。
真実を追い求め続けてきたピップが得たものと失ったもの。自分が信じた正義が司法によって正しく裁かれるとは限らないし、自分の行動が周囲の人々を巻き込んで傷つけ、傷つけられたりするかもしれない恐怖。
今回の事件で直面した葛藤に悩みながらも、自分の中の正義を信じて進むピップを応援せずにはいられない。次作も楽しみだ。