今月の PICK UP レビュー

2022年

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読書メーターユーザーおすすめの本に寄せられた、感想・レビューを紹介!

思わず読んでみたくなる感想・レビューが勢揃い。
次に読みたい本を見つける参考に、ぜひチェックしてみてください。

残月記

最も新刊が待たれた作家、飛躍の一作

残月記

感無量。こんな作品に出会えるなんて。月に魅入られて囚われて、熱にうかされたような熱気と狂気を孕んだ3編、どれも凄いが何と言っても標題作。

月の満ち欠けに生殺与奪を握られてしまう感染症「月昂」の描写も凄まじいが、心を鷲掴みにされたのは同じく発症して収容所へ送られて、独裁者の慰みの闘士として育成された男と、勝者への貢ぎ物の娼婦の純愛。

満月の次の夜、闘いに勝利した時のみの逢瀬、限られた余命の中で。厄災のような事件の後の二人の運命。美しすぎる月世界でのラストに涙、また涙。これからは月を見上げる度に彼らを想うよ。

求めよ、さらば

恋愛小説であり、人々の人生への愛の物語

求めよ、さらば

正しく努力し、結果を手にしてきた志織。優しく完璧な夫、誠太。何も問題はない、なのに子どもができない。志織、誠太両視点で2人の関係を読み解き、すれ違った2人の間にあったのは。志織が真剣に、丁寧に振り返る思い出の数々に思わず目が潤んだ。

求めて初めて見えるものがある。愛は、何気ない日々の中に、今生きる自分の中に確かにあるのだと思った。言葉を尽くさず人を傷付けた過去たちが、人、夢、自分勝手に諦めたものたちが心の中で叫んでいた。簡単に絶望するな、求める前に手放すなと。これは恋愛小説であり、人々の人生への愛の物語だ。

ミーツ・ザ・ワールド

金原ひとみが描く恋愛の新境地

ミーツ・ザ・ワールド

銀行員の由嘉里は焼肉擬人化漫画M・I・Mを愛する腐女子。ある日散々だった合コンの帰りにぼろぼろだったところをキャバ嬢のライに拾われる。「死」が本来の状態であり、自分は消えているのが本当の姿というライと関わるうち、由嘉里はライが気になり一緒に暮らすことに。

ホストのアサヒ、作家のユキ、ゴールデン街で店を開くオシン。ライを通じて新たな交流を持つうちに世界との新しい関わり方を知る由嘉里。

自分を少なからず投影し、ライやアサヒ、ユキやオシンとの対話をし、寄り寄り添われたような読了感。人生辛い時に読み返したい1冊。

皆のあらばしり

ラストの逆転劇が光る、良質のミステリのような注目作

皆のあらばしり

高校の歴史研究部に所属するぼくは地元の城址で男に出会い、好事家が蔵書目録に残した「謎の本」について調べることに。男を怪しみながらも、彼の博識ぶりにどんどん惹かれていく。

今時、自分のこと「わし」なんて言う人いる?などと思いつつ、男のコテコテの大阪弁がなかなか楽しかった。胡散臭いけど教養豊かで、古風でスマホは持ってないけど、ディズニーにやたら詳しかったり。つかみどころのない男にぼくが惹かれていくのもわかる・・と思っていたら、最後の逆転が鮮やかだった(ぼく、かっこいいぞ)面白かった。

捜査線上の夕映え

圧倒的にエモーショナルな本格ミステリ

捜査線上の夕映え

なんてエモい作品だったのだろう。あとがきで「余情が残るエモーショナルな本格ミステリ」と書かれていたけれど、まさにその通りだと思う。コロナ禍を上手に描いていたとか、都会から一転舞台が島になる対照さが美しいとか、火村とアリスの掛け合いが安定していてもはや嬉しいの域とか、感想はいっぱいあるのだけれど。

一番印象的だったのはラスト近くの取調室のシーン。「言葉にするのが難しい感情」を、言葉を使っていながら、言葉を越えた感覚で訴えかけられた気がしてなりませんでした。先生の言葉の使い方が本当に好きです。

世界の美しさを思い知れ

「生きること」と「死を受けとめること」の意味を問う、感動のロードノベル

世界の美しさを思い知れ

双子の弟の尚斗が25歳の若さで自殺した。兄の貴斗は弟の死の現実を受け止めきれない。何に苦しみ、何に絶望したのか。尚人が旅した国を訪れてその痕跡を追う。

マルタ島、台中、ロンドン、ニューヨーク。同じ風景を見て、同じ食事をして、縁のあった人と会話する中で尚斗と次第にシンクロしていく過程は双子ならではの特質かも知れない。だからホテルのバルコニーでの出来事には震撼した。完全に同化した瞬間かも知れない。

世界は美しさで溢れ人々は優しく温かい。旅することで心の色がモノトーンからカラーに変化し生命力を宿したように感じた。

星を掬う

町田そのこ 2021年本屋大賞受賞後第1作目。すれ違う母と娘の物語

星を掬う

幼い頃に母と生き別れた千鶴。別れた元夫のDVから逃れるために身を寄せた先には自分を捨てた母の聖子がいて、楽しかった夏の記憶と捨てられた真相を知るための不思議な同居が始まる。

悪夢のような再会には後悔が募るばかり。不幸な人生を全部母親のせいにする娘と若年性認知症に戸惑う母。お互い戸惑いながらも理解しようとするが故にぶつかり傷つけ合う二人。辛い過去や女性の生きづらさがメインの本書に救いはあるのか?

女性を一段低く見て扱う家庭や職場、社会全体にあふれている歪んだ文化や慣習が無くなればいいのに。自分の人生を守ろう。

星を掬う
星を掬う
夜が明ける

多くの人の心を揺さぶる救済と再生の感動作

夜が明ける

西加奈子さんの人生観が色濃く出ている、社会派小説。とことん弱者の側に立った描写は、もはや論壇の最高峰に立っている。世界的に排他的、攻撃的になっている今の世界。最後にページは、魂の叫びのよう。アキや遠峰、俺は皆家庭的に恵まれず、社会の底辺を生きる。弱者を救済する法律も知らず、そんな法律を誰が作るのかも知らず。放送業界がこれほど過酷だとは(ディフォルメされているかも知れないが)。

助けてほしいときには声を出そう。苦しんでいる人のために戦おう。人生は勝ち負けじゃない。まっさらな若者のような気持ちにさせてくれる傑作。

夜が明ける
夜が明ける
愚かな薔薇

美しくもおぞましい吸血鬼SF

愚かな薔薇

常に幻想的な雰囲気が漂う。とてつもなく文章が読みやすく、作者が描く世界観に自然に入り込むことができた。

「愚かな薔薇」とは何か?吸血鬼をベースにしたファンタジックなストーリーが展開され、気づくと夢中になっている。多くを言葉にできないが、心地の良さを感じられる。竹取物語を皆々ハッピーエンドにした物語なのでは?とも思った。

愚かな薔薇とブドウの永遠には結ばれない関係を、上手いこと永遠にしているんだと思う。ここまで書いて、永遠=トワだと気づいた……

ひとりでカラカサさしてゆく

いくつもの喪失、いくつもの終焉を描き、胸に沁みる長篇小説

ひとりでカラカサさしてゆく

いつもの江國さんとは異なる雰囲気の設定を持ちながら、江國さんワールド全開のお話だった。

大晦日の夜、八十歳過ぎの男女三人が命を絶った。最後と決めた夜に、これまで重ねた同じ時、それぞれに過ごした時を懐かしむ。ほしいものも行きたいところも会いたい人もなくなった時、健全ではなくても共にあろうと思える人がいること。この夜から始まる遺された者の交流。

出来なかった事をやってみたり新しく生まれたり進んでいくこと、形を変えてもそこにあり続けること。これからも生きていくということ。切なく静か、そしてあたたかなお話を大晦日に。

天使は炭酸しか飲まない

記憶と恋がしゅわりと弾ける、すこし不思議な青春物語。

天使は炭酸しか飲まない

相手の顔に触れると好きな人がわかる異能を持ち、他人の告白を後押しする「天使」として活動する主人公が、異様に惚れやすいヒロインの「惚れ癖」の原因を探るというラブコメ。暗い過去を持つ主人公とヒロインが、ヒロインの抱える問題の解決を通して心を通わせる。

王道一直線の内容で非常に良かった。オカルト要素はあれど、味付け程度であり、問題の解決をそれに頼り切りにするのではなかった点が好印象。予定調和な前半からの、終盤にかけての盛り上がりは興奮した。タイトル通り、炭酸のようにシュワッと弾ける青春モノでオススメ。

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