今月の PICK UP レビュー

2021年

1

読書メーターユーザーおすすめの本に寄せられた、感想・レビューを紹介!

思わず読んでみたくなる感想・レビューが勢揃い。
次に読みたい本を見つける参考に、ぜひチェックしてみてください。

日没

「更生」との孤独な闘いの行く末は―

日没

怒りが爆発しそうだ。これほど残酷性、暴力性のある作品を久しぶりに読んだ。

言われのない罪で療養所とは名ばかりの牢獄に閉じ込められた女性作家。劣悪な場所、劣悪な食事にクソ従業員たち。人間の尊厳を破壊する数々の仕打ちと絶望。所々に希望を持たせるエピソードを入れるあたり、読み手の感情をも支配されているようで、まんまと作者に導かれる。

匿名で他人を攻撃する、そんなネット人たちに対する復讐にも見て取れた。この世界にはこんな場所がごまんとあるのだろうな。私なら進んで死を受け入れるだろうか。

日没
日没
秋の牢獄 (角川ホラー文庫)

圧倒的に美しく切なく恐ろしい物語

秋の牢獄 (角川ホラー文庫)

この本をこうやって11月7日に読むのは、もう何年目になろうか。そして、今年心に引っかかったのは、11月7日に妻の裏切りを知り、地獄のような日を繰り返すこととなった男性の話。

目の前で平然と裏切り続けられる日常に、何度後悔しただろうか。妻に?相手の男性に?リプレイヤーに選ばれたことに?知らなければ幸せだったのだろうか。何故自分だけがと絶望し、そこから抜け出す事だけが幸せだと思えてくる。余命宣告を受けた感じに近いのだろうか。

一人であると自覚することは、もしかして何よりも苦しい事なのかもしれない。

夜明けのすべて

生きるのが少し楽になる、心に優しい物語

夜明けのすべて

厄介なのに極端に知名度が低かったり正しく理解されていない病気って確かにある。本書はPMSの藤沢さんとパニック障害の山添君が相手の苦痛をちょっとだけ減らそうとちょっとづつ気遣いあう物語。

山添君の病気に臆せずかかわってみようという藤沢さんの勇気。3回に1度くらいなら助けられるという山添君の正直さ。薄毛も水虫もPMSもパニック障害も同じ地平にある心身の迷いとして過剰でも過小でもなく受け入れる栗田社長のフラットさ。隣の困った人は実は困っている人なのかも。

優しい物語の中に壁の無い世界へのとても強い願いを感じる。

始まりの木

生きることの意味を問う、新世紀の“遠野物語”

始まりの木

偏屈な民俗学者であり大学准教授の古屋と教え子で修士課程にいる千佳が「日本人」を知るために日本各地を二人で旅する。

古屋の毒舌に怯むことなく応酬する千佳の口撃も面白く何度も笑った。嶽温泉、伊那谷の大柊、紅葉の鞍馬等、魅力的な場所が民俗学的に由緒ある地域と共に描かれ、訪れて見たくなった。西洋の神と日本の神に対する意識の違い、自然を克服するのではなく自然を畏怖し尊ぶ日本人の心の美しさを存分に感じた。読後「遠野物語」を読もうと思った。

「藤崎、旅の準備をしたまえ」願わくば、あの一言をもう一度聞きたい。

始まりの木
始まりの木
あの日、君は何をした (小学館文庫)

家族が抱える闇と愛の極致を描くミステリー

あの日、君は何をした (小学館文庫)

それは愛情だったはず。いつ妄執に取って変わったのか。

自分だって同じ立場に放り出されれば、同じようになるかもしれない。そんな母ふたりの行き着く先をノンストップで追いかける。謎を繋ぐ鍵を見つけた三ツ矢刑事が独特で印象的。肝っ玉母さんは、沙良ちゃんの母を続けることはできなかったんだね。できるなら、できる限りそこにだけは踏みとどまっていたいと思うけど。ラスト近く、そんな母を息子は嫌っていなかったとわかり、ほっとしたのも束の間、予想もしなかった事実が。

「あの日、君は何をした」か。知るということの重さと怖さ。

お誕生会クロニクル

"お誕生会"をめぐる人間模様を描く連作短編集

お誕生会クロニクル

手製のプレゼントを贈った時の母親の呟き「万華鏡」、3・11が誕生日の双子を持つ母の奮闘「あの日から、この日から」、認知症を患う母親からの祝福「刻の花びら」…。誕生日会をめぐる人間模様を描いた連作短編集。

物語の背景に介護の問題やコロナ禍が盛り込まれ、誕生日のことで心を痛める人々のお話は現実と向き合うようでもありますが、希望を見出せます。少し立ち止まり考えるきっかけを与えてくれ、心がほどけていくように。

一年に一度の特別な記念日。生まれてきたことを、大切な人と出会えた幸せを感謝する素敵な日として心に刻みたいと。

滅びの前のシャングリラ

滅び行く運命の中で、幸せについて問う傑作

滅びの前のシャングリラ

あああ、わたしが物語に求める全てが詰まっていた。

1ヶ月後、人類は滅亡する。転生したいイジメられ高校生、暴力衝動を抑えきれないヤクザ、強烈にタフな元ヤンシングルマザー、そして浪花育ちの歌姫。彼らの終末までの物語。

連作多視点ならではのキャラ立ちとリエゾンが素晴らしい。さらりと紡がれていく、何気ない一文のキレと奥行きの深さ広さに、朦朧と呻く。世界は刻々と『北斗の拳』化していくのに、泣いて笑って、胸の奥から熱く膨れ上がってくるのは『希望』だ。ラストは惹句通り圧巻。

肌を粟立てたまま茫然と余韻に沈んだ。ありがとう!

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