
痛烈で愉快で洗練された、仕掛けだらけのリーガルSF短編集
令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法
どこかの世界の様々な「レイワ」における価値観と新法。それによる人々の狂想曲。
一歩間違えば現実の世界になりうるように見えるのは、どのレイワワールドでも人の心は変わらないから。
感情、人の心の動きの根本は変わらない、変わるのはそれを取り巻く価値観だけ、それに対して私たちがどう振る舞うのか、冷徹に描き出され、それは時に滑稽なほど哀しい。
その滑稽な哀しみの世界を体験すると、戻ってきた自分の今いる世界がこれまた、少しばかりおかしな感じに思えるから不思議だ。そんな体験を味わえた。

読む者に慄くような感動をもたらす幽霊小説の決定版
踏切の幽霊
怖いけれど、切なさが勝る。そんな読後感。最後に主人公が推理した踏切のあのくだりがそう感じさせるのだろう。
『ジェノサイド』からなんと11年。高野さんの新作長編はミステリー×幽霊譚。
舞台は1994年の下北沢。主人公は雑誌記者。心霊ネタ特集の取材をするうち、ホンモノにぶち当たる。ゾワリとする箇所も多々あったが、真相が知りたい一心でページを繰る手が止まらない。
このリーダビリティの高さは、さまざまな要素をぶち込みながらもあえて多くを語らないこと。引き算の巧さで、本丸と主人公が抱える背景を際立たせていると思った次第。

女性死刑囚の心に迫る本格的長編犯罪小説
教誨
読めば読むほどせつなくて、考えれば考えるほど悲しい事件を描いた作品。
田舎町に両親と暮らしていた無垢で心優しい少女が、ちょっとしたボタンのかけ違いで運命の歯車を狂わせられ、身内や周りの心ない人々の悪意に翻弄され追い詰められていく。そんなことが下地になければおきなかったかもしれない二つの殺害事件。
最後に教誨師の下間に教えを乞うことができたのは唯一の幸いだったが、彼女一人がこの罪を背負い、こんな形で終わりにして良かったのだろうか。死刑制度についても考えさせられる作品だった。

16歳、夏。はじめての、青春。
レプリカだって、恋をする。
愛川素直という少女の分身体(レプリカ)、素直が学校に行きたくない時だけ代わりになる少女ナオ。勉強も運動も全部、素直のために頑張ってきた彼女が、初めて見つけた自分だけのものは恋心だった。
ニセモノが見つけたホンモノの恋のお話。よかった……。
主人公ナオというレプリカが初恋によって初めて望んだもの、それは明日も明後日も彼と会う約束。守れるかどうかわからなくても、約束せずにはいられなかったとか、そんなの好きにきまってるじゃないですか!!切なさで胸が張り裂けそうとは、このことかと。作者さんの次作も読みたいです!

現役医師でもある著者が唯一無二の母と娘のあり方を描く
植物少女
出産時に脳出血を発症、以来植物状態になった母親深雪とその娘美桜の物語。
「みお、産まんかったらよかった?」と沈黙を続ける母親に訊ねる美桜。切なくなるが母娘の場面の描写は温かくて。確かにこの二人は母娘なのだよなぁ、親子の形に正解はないのだと思った。
「普段ベッドの上でほとんど動きのない五人の人間は、まるで名画の中の人物みたいだったー」騒がしい世間を離れ、静かに呼吸音だけが響く病室。でも間違いなく生きている。生きるとは究極、呼吸すること。深く心に残る一冊でした。

ミステリー史に残る伝説級超絶トリックに驚愕せよ!!
逆転美人
まずは著者と本書の編集・校正を担当された方々に「お疲れさまでした」と労いの言葉を贈りたい。
伝説級トリックについては『追記』で明かされるまで全く気付かなかったので、素直に驚いた。目新しさは無かったものの、これほどの大仕掛けをやり遂げたということに脱帽せざるを得ない。かなり大変だったろうな…。
美人であるが故に悲惨な人生を送ってきた香織の手記が冒頭から延々と綴られるが、所々に挟まれる昭和ネタが笑えるので、重苦しくなり過ぎずサクサク読めた。
あと認めたくはないけれど、やっぱり「他人の不幸は蜜の味」なのかもしれない。

18歳の新星が放つ、一段飛ばしの言語感覚!
ビューティフルからビューティフルへ
ちょっとこれはかなり衝撃的だった。
決して真っ直ぐな道を歩んでいるとは言い難い高校生3人の心の内を言葉の散弾にして四方八方撃ちまくる。奔放すぎて理解が追いつかないところもあるけど勢いとリズム感が病み付きになる。
次作が出たら必ず読む。