今月の PICK UP レビュー

2022年

7

読書メーターユーザーおすすめの本に寄せられた、感想・レビューを紹介!

思わず読んでみたくなる感想・レビューが勢揃い。
次に読みたい本を見つける参考に、ぜひチェックしてみてください。

夜に星を放つ

人の心の揺らぎが輝きを放つ五編

夜に星を放つ

どの作品も登場人物それぞれが手の届かない輝きに手を伸ばしていて、夜の星がそのメタファーになっているという構図がとても素敵。

すごくベタな設定なのに、決してご都合主義とお為ごかしに終わらないほろ苦さもある。人生はままならない、それでも前向きに生きていこう、そう思わせてくれる作品ばかりだった。飾り気のない落ち着いた文章が心を僅かに波立たせるような短篇集。

一つ間違えればうんざりするほど苦手なジャンルだが、この本は好きだ。収録作でのお気に入りは「湿りの海」かな。

夜に星を放つ
夜に星を放つ
十角館の殺人

1987年の刊行以来、多くの読者に衝撃を与え続けた名作

十角館の殺人

こういう、所謂「不朽の名作」に名を連ねている作品は、感想とか無理だと思う。

なんとなく生きてきた私の語彙力では、なんと書いてもなんか違うのです。でもこの「ぐぁぁ!」というキモチをアウトプットしないと、どうしようもない。全部持っていかれて悶絶する…だから嫌なんだ……不朽の名作……

例の一行だけじゃないんです。最初の神に委ねるところから、完遂するところも、最後に子供に頼むところまで。言葉の選び方から、並べ方まで。

もう、感想は「ぐぁぁ!」です。

爆弾

爆弾魔の悪意に戦慄する、ノンストップ・ミステリー

爆弾

不出来ななぞなぞのように腑に落ちないヒントで、ぬるりぬるりと爆弾の場所と時刻を匂わせるスズキ。取調室の中でスズキの放つ悪意に絡めとられ負の感情を引きずり出される伊勢、清宮、類家。いっぽうで外を歩く警官たちが爆発に巻き込まれる。憎しみと警察官としての責務がせめぎ合って生まれた波に飲み込まれる沙良。

終盤でスズキの心情(の可能性)が示され、なぞなぞの不自然さに納得がいく。でもやはりなにも解は出ず、この過程の中で傷を負った人間たちは最後の爆弾について考え、自分の“こころの囚人“の呻き声と共に生きるのだろう。

爆弾
爆弾
くるまの娘

文学史に新たな1ページを刻む、家族小説の金字塔

くるまの娘

家族の中に生まれる不均衡な関係性が、時として突風のようにすさまじく荒ぶる時がある。そんな時間帯を幾度もやり過ごしながら、主人公は自らの青春時代という不安定な台に乗っかることに、怯えまた前を向いて移行している。

物語は家族内で終結し、やり場のない怒りに似た感情を互いに抱いているのだろうと推察しつつ、どのような明るい未来を描けるだろうかと思う。慟哭こそしなかったが、心に悲しみを感じた。

宙ごはん

どこまでも温かく、やさしいやさしい希望の物語

宙ごはん

家族の在り方に苦悩する宙が、離れて暮らしていた実母のカノと悩み、ぶつかり合いながら親子関係を作り上げていく物語。ふわふわのパンケーキで始まり、ふわふわのパンケーキで終わる、料理を通して伝わるみんなの想いに心温まる話でした。

今回は暴力場面抑えめで、そして町田そのこ作品定番の心の底から善良で主人公を支えてくれる人もちゃんといてくれて、安心して読めます。ラストシーンは予想していてもやっぱり胸熱。救いのある優しい話に心癒されました。

宙ごはん
宙ごはん
八月の母

著者究極の代表作、誕生。 連綿と続く、女たちの“鎖”の物語

八月の母

辛くキツイ読書だった。それでも途中で投げ出さず最後まで読まずにはいられなかった。

愛媛を舞台とする母娘三世代の負のスパイラル。羽ばたいて行こうとする娘にすがりそれを許さない母、そして諦めてしまう娘。何も変わらない始まらない螺旋階段。三代目で初めて母を自らの意思で断ち切り自分の人生を生きる事を決めた陽向。それが唯一の救いだった。

団地編は実際の事件をモチーフにしているらしいが凄惨だった。紘子はエリカを神格化していた様に思う。紘子が命をかけて守ろうとしたのはエリカと陽向、そんな紘子を思うと切なさでいっぱいになる。

ラブカは静かに弓を持つ

想像を超えた感動へ読者を誘う、心震える“スパイ×音楽小説”

ラブカは静かに弓を持つ

全日本音楽著作権連盟に勤務する橘は上司から音楽教室への潜入捜査を言い渡される。著作権侵害の証拠を掴むため入会したミカサ音楽教室で橘はチェロ講師の浅葉と出会う。

チェロの優しい音色が頭の中に伸びやかに響いていく。読み進めるごとに音楽に触れる自分の心まで蝕まれていくような、きりきりとした痛みが心を締め付ける。自分が正しいと思うもの、後悔しないものを選ぶ勇気。暗い海の底でラブカは静かに泳ぎ出す。

音楽っていいなと素直に思える物語だった。物凄い小説を読んでしまった高揚感に未だに捉われている。

ロング・アフタヌーン

私たちのシスターフッドがここにある、著者渾身のミステリー

ロング・アフタヌーン

不思議な構成だった、冒頭の象徴的な小説、その公募象作品に惹かれる編集者、時を経て送られてきた作品はどこまでがフィクションか?

交差する彼女たちの生き方。「生きていてよかった」その呟きに気持ちが揺れた。自分で選んだのだと自分自身に言い聞かせて生きる日々は危うく、切れれば一気に死に振れてしまう。新たに生きるためにとったかも知れない行動。その一つ一つに思いをめぐらせると目眩がしそう。

折しも先日読んだ桜庭作品「少女を埋める」と重なってしまった真実の中に打ち込む創造、その境界線が限りなく滲み今回は踏み外した気分。

ページTOPへ戻る

過去ページ

2023年
2022年
2021年
2020年