
ノンストップ・ノワール小説
黄色い家
これまでに読んだ著者の長篇と共鳴するものがありながら、それらどの作品とも全く異なった読後感。新境地と言える作品ではないか。
貧困や格差、毒親やシスターフッド等、昨今の日本文芸で流行とも言えるテーマを扱っているが、その筆力は群を抜いている。と言うよりも、某文学賞の候補として挙がる小説などとは「格が違う」と言わざるを得ない。一日でも読み続けられるリーダビリティにも舌を巻く。疾走感と質量を併せ持った傑作だ。
読み終えてから暫く経っても体内の毒が抜けきらない感覚がある。恐るべし川上未映子!

逃げ場所などない東京砂漠を生きる人々の焦燥と葛藤!
息が詰まるようなこの場所で
湾岸に聳え立つタワーマンションで繰り広げられるお受験戦争。
人にはそれぞれの地獄があり、隣の芝生はいつも青い。親と子、それぞれに息苦しさを抱えながら発散できずに互いにモヤモヤが溜まっていく。いつもタワマンのきらきらした外側の部分しか見ようとしていなかった。上層階と低層階の間にある見えない溝。選択肢を与えられることなく塾に通い詰めにされる子どもたち。内側に蠢く人間の感情のドロっとした部分だけ閉じ込めて、今日も高い鉄の塔は輝きを放つ。
読後はカバー裏まで含めてとても爽やか。止まない雨はない。

ささやかな、小さな魔法の物語
不思議カフェ NEKOMIMI
リプトンの黄色い箱のティーバック、ロシアケーキ、商店街の端の地元のスーパー、先代から続く印刷会社。読み始めてすぐ懐かしさに一度本を閉じてしまう。50代の律子に自分自身も重ねて。作者が後書きで書いているように毎日少しずつ読んでいった。
約束を果たすために旅を続ける古いお雛様、過疎化が進み閉校になった山の小学校の満開の桜、大昔の戦と70数年前にも戦争で焼かれた町の夏。どれも今まで私が住んできた場所と繋がって胸がいっぱい。そして出てくる食べ物のおいしそうなこと。小さな祈りと魔法。本当に温かい。

生きることの官能を描き切った新境地にして渾身の大河長篇!
しろがねの葉
戦国時代の末の石見銀山。山師喜兵衛に拾われた夜目がきくウメは手子として働き、銀鉱脈だけではなく薬草の知識も彼から授けられるが成長し女の体に変化していくに従い銀堀になれないことを悟る。
銀山で生きる男たちは長生きできない。男は死に女たちが残る。女は次の男のもとに嫁ぐ。ウメを愛してくれた男に嫁ぎ子をなし幸せを掴んだはずのウメも例外ではなかった。
ウメの生きざまにため息が出る。脇役も魅力的。何も言葉が出ない!凄い作品を読んだ!

「認知症の老人」が「名探偵」たりうるのか?
名探偵のままでいて
「楓。煙草を一本くれないか」で幕開ける、71歳元小学校長の切れ者祖父の推理劇場。
ただ、祖父はレビー小体型認知症で、幻視や記憶障害を患い介護生活中の身。ミステリマニアの可愛い孫娘、楓の持ち込む謎や事件を紫煙を燻らせながら'物語って'いく。私自身、古典海外ミステリの造詣は皆無だが、作者のそれへのオマージュ感と会話への挟み込み方は、登場人物達の軽妙で知的な会話とも相まって、ミステリ特有の不自然なイヤミ感がなく、温かみすら感じる。
本格ミステリ回避傾向の私にもすっと馴染んだ本作。なるほど納得の『このミス』大賞作。

まだ空室アリ〼。
鎌倉駅徒歩8分、空室あり
なりゆきで始まったシェアハウスに暮らす女性たちがリレー形式で胸の内を語っていく連作。
背景の鎌倉の街並みは素敵だし、どの話も明るい終わり方をしているのだけど、何か心に重さが残る作品だった。孤独、家族との不和、マイノリティの問題など、住民女性たちの抱える状況はあまり良い状況ではない。私自身も時折悩まされる、今の社会の問題がどの話にも登場することが重苦しさの原因かもしれない。
シェアハウスのイメージが、楽しいだけのものではなく、悩みを抱える人たちのシェルターへと様変わりしているのかなと感じさせられる作品だった。

全世界が涙した不朽の名作
アルジャーノンに花束を
SF小説の名作。久しぶりに本で泣いた気がする。本当に素晴らしい作品だった。
ひらがなだらけ、誤字脱字だらけの文章で始まる物語。知的障害を持つ32歳のチャーリイが書いた経過報告だと知って、驚く。やがて実験の対象となったネズミのアルジャーノンが登場し、チャーリイも同じく脳手術を受ける。それにより知能が上がり、色々なことができるようになる。けれど、頭が良くなるにつれ、知りたくない事実を理解するようになる。
最後の展開は予想外だった。最後の1文を読んだ瞬間、涙が込み上げてきた。高校生になったら再読したい。

この虚構は、魂の急所に直でくる。
俺が公園でペリカンにした話
まさかの連作集だった。
よくもまあこれだけのスラングを機関銃のように撃ち込んでくれたなあ。理解できないワードがいくつもあって読むたびにクタクタに。ぶっ飛んだ内容をこれだけ揃えられる腕力は流石。主人公がワリとまっとうで会話も軽快。時々社会風刺が仕込まれていて、つい同調してしまって不安になることも。。。
こんな滅茶苦茶な作品集は平山さんにしか書けないよな。

選考員満場一致! 第11回ポプラ社小説新人賞受賞作
つぎはぐ、さんかく
おにぎりの中に、何が入っているか 楽しみながら食べるような読書体験でした。
家族三きょうだい'家族の秘密'がわかっていくのがミステリーみたいでおもしろかったです。
食べると懐かしくて 口の中で馴染むような おにぎり。そんな感覚が家族なのかな?利害関係なく、相手を思いやれるって素晴らしいことです。主要の登場人物の今後を祈りたくなるようでした。
少し仕事で疲れている時など、こんなお店があったら寄ってみたくなりました。ヒロの作ったポテトサラダを食べたいし、晴太のコーヒーを飲みたいな。