
『六人の噓つきな大学生』の著者が放つ炎上逃亡ミステリー!
俺ではない炎上
ひゃーーー!脱帽。この手のストーリーは何作か読んだことがあるがダントツでこれが面白かった。
ある日ネット上で知らない間に自分が殺人犯にされていた。事実無根。なのに笑ってしまうくらい全ての証拠が自分を指している。まさに『俺ではない炎上』。初めて読む作家さんだがとにかく作者の試合巧者ぶりが凄い。文章上手い・展開が半端なく練られている・一瞬混乱を仕掛けておいてからの伏線回収・今時問題のメッセージ性あり。
てんこ盛り盛りなのに読後、清々しさすら感じた。最初から最後まで引きこまれ、ほぉーと感嘆。お見事な一作。

海の見わたせる「はこぶね」のような図書室がつなぐ〈本と人〉の物語。
図書室のはこぶね
図書室や図書館と言う文字がタイトルに入っていると読まずにはいられない貴方にぜひ。
ある高校の図書室で10年振りに返却された本と、そこに挟まれていた不思議なメモの謎解きを軸に、土曜日の体育祭に向けて月曜日からの出来事が描かれる。
友情、恋、届かぬ想い、情熱、仲間、体育祭準備への盛り上がりなど、読書しながら高校生のあの頃にタイムスリップしてしまう。主人公である、足にケガをして1週間だけの図書委員となった体育会系女子がいい。また、先生や高校OBの大人達もカッコいい。読んでいて清々しくなる小説だった。

もうひとつの20世紀アメリカ文学史を大胆不敵に描く傑作長編
ジュリアン・バトラーの真実の生涯
架空の作家の伝記の翻訳本という体裁をとりつつ、近現代のアメリカ文学・芸能史、ニューヨークとイタリア各都市の時代を超えた紀行文、そして虚構の訳者による謎解きミステリーと、いくつもの性格を持つ作品。
アメリカ文学に疎いため、実在の登場人物をいちいち調べたくなるのだけど、ストーリーの面白さにページを捲る手が止まらず「後で調べる」宿題がたくさん残った。
読書の世界を広げてくれる1冊だった。

ふたりの仕事が交錯する現代版おとぎ話
マイクロスパイ・アンサンブル
パラレル☆イィササヵカ☆ワールド。
あちらの世界にいる、TheピーズやTOMOVSKYの曲を知っている僕が読んだら、佐渡おけさ、いや、さぞOKさ!でも、こちらの世界にいる、そんなバンドなんて知らない僕が読んでも、伏線回収しまくり、いざ鎌倉、いや、伊坂祭りを堪能しまくり!猪苗代湖で繰り広げられる、ハートウォーミングなスパイ&お仕事ファンタジー小説への扉を開け放とう!

愛がまねく、予測不能な結末
初めて会う人
怖いというか不気味というか…。なんらかんらのパーソナリティ障害を患っている人たちが、これでもかというくらいに読み手をイライラさせ恐怖に陥らせてくる。転職先の男性上司に憧れ執拗に追い詰めていく男。人の感情を理解できない、一般的常識や倫理が欠如した女。
キャラが凄すぎて怖い。同僚殺害事件と過去に事故と処理された事件が結びついていく。真相は人の深層心理に食い込んだ究極の愛なのかな怖いけど。
最後まで「ブルータスお前もか」と鬱とさせられる。

新たなる武闘派ヒロインの誕生!
JK
「高校事変」を超えるバイオレンス青春小説!!と謳われており、あれを超えるとはどれ程と思っていたが、完璧に超えてた笑。結衣に続く武闘派ヒロインとして誕生した今作のヒロインは「探偵の探偵」の玲奈とは違った陰りがあり、読んでいて惹きつけられる…。
流石は松岡先生!!ミステリー要素もあり読んでいて最後はスカッとする本だった。シリーズ2作目も予定されており、今後の展開が楽しみです!
タイトルの「JK」は女子高生という意味ではなく、本作のヒロインの強さの源である精神を意味しており、その意味は是非読んで確認してくでさい!

人知れず抱える居心地の悪さや寂しさに寄り添い、ふと心を軽くする物語
タイムマシンに乗れないぼくたち
居心地の悪さを抱えて生きるひとたちの作品集。
クラスに馴染めない小学生や味気ない日々を送る女性など、孤独を抱えて受け容れることを肯定的に描いている。誰の人生にもきっとある、不自由なワンシーンを切り取ったような作品たち。少し歯切れが悪くて、まるで途中で放り出されたように物語は幕を閉じる。それが何とも優しくて、何とも切ない。
窮屈に生きる「きみ」に語りかける『深く息を吸って、』が素晴らしく良かった。どこへもいけず、逃げ出せないぼくたちでも、きっと大丈夫。孤独はいつだってそばにあって、手放さずとも生きていけるのだ。

20数ヶ国語に翻訳されている、人間存在の極限の姿を追求した長編
砂の女
冗談じゃない、全く。砂の穴の中で健康的な生活が続くとは到底思えない。
逃げられないのなら殺してくれと叫びたくなる程の恐怖。繰り返される過去の記憶や自問自答。しかし、やがて男は順応していく。一生物としての活動を淡々と繰り返す。食欲、性欲、目先のわずかな喜び。全てを諦めて捨て去った後に残るのが自由のない平和。恐ろしい。
時代的なものもあるだろうが、閉鎖的な村の結束力は特に恐ろしい。

14歳の少女の「世界」を描く、心揺さぶる長編小説
両手にトカレフ
カネコフミコの自伝とリンクしていくミアの人生。酒と薬と男に溺れ、子どもたちを見ようとしない母親。信じては裏切られ、ミアは誰にも期待しないヤングケアラーになってしまった。
ミアの境遇に憤り、何度も涙が出そうになった。けれど、何不自由なく暮らしている私が、ミアを憐れんで泣くのは失礼に思えて耐えた。「別の世界」なんてどこにもない。この世界から始まり、広がっていくのだ。
私もウィルのように、わかるための努力をすることから始めたい。ただ、今だけはフミコの人生とミアの未来に思いを馳せて、涙を流すことを許して欲しい。