今月の PICK UP レビュー

2020年

12

読書メーターユーザーおすすめの本に寄せられた、感想・レビューを紹介!

思わず読んでみたくなる感想・レビューが勢揃い。
次に読みたい本を見つける参考に、ぜひチェックしてみてください。

推し、燃ゆ

『アイドルを推す』ことをリアルに描く

推し、燃ゆ

「推し」が燃えたところから始まる。やはり斬新。

人を惹きつけて離さない文章が、理解できない、と投げ出すことを許してくれない。無理矢理人の感性に踏み込んでくる。面白い面白くないでは語ることができない、得体の知れない何かが。

推しを理解しようとすることで、自分の存在意義を見出だすあかり。何かに依存することを生きる力にするのは楽だと同時に不安定だ。自分を軸にしてバランスを保って生きるって、案外難しいかもしれない。

自分はどうだろうと振り返った。この装丁は肉体(ピンク)の中は推し(ブルー)でいっぱいということなのかな。

推し、燃ゆ
推し、燃ゆ
ライオンのおやつ

毎日をもっと大切にしたくなる物語

ライオンのおやつ

瀬戸内海の小島に建つホスピス「ライオンの家」。本書は、余命宣告を受けた主人公・海野雫が、ここで最後の日を迎えるまでを綴る物語だ。

クセの強いキャラが登場するわけでもなく、ハッとさせられる出来事が起こるわけでもないが、この作品には読み手を惹きつけて離さない磁力がある。なぜなら、死を描く話でありながら、食べる、愛する、慈しむといった「命の営み」に強く焦点を当てているからだ。

与えられた日々を最後の瞬間まで精一杯生きた彼女の魂は、文字どおり「海の雫」となって永遠の時を循環し続ける・・。限りない優しさに涙する一冊。

あなたのご希望の条件は

働くすべての人へ贈る、人生応援小説

あなたのご希望の条件は

毎回楽しみにしている瀧羽さんのお仕事小説。今回の主人公は人材紹介会社で働く転職エージェント。

転職と言っても、キャリアアップを目指す人もいれば、家族の都合でやむなく転職する人やブラック企業からほうほうの体で逃げ出してきた人もあり。それぞれの事情や希望を考慮しつつ、転職へ向けてアドバイスするというなかなか手腕が問われる仕事ですね。

悩んだ時に冷静な分析をしてくれる高性能の対話型Alソフィアが、面白くていい味を出してる。主人公自身の生き方も重なり、興味深く読んだ。

やっぱり、一生懸命働く人の物語はいいですね。

同姓同名

前代未聞、大胆不敵のミステリー

同姓同名

幼女惨殺犯・大山正紀と同姓同名というだけで、これほどの悲劇が生まれるとは。

『“大山正紀”同姓同名被害者の会』を結成し、それぞれの被害を共有し合い、殺人犯・大山正紀から解放されたいという思いから、活動がエスカレートしていく。そして、大山正紀同士の事件が発生。倫理の同調圧力や、エコーチェインバー現象(同じ主張の同士が集まり、他の主張を一切認めなくなる現象)の恐ろしさ。

同姓同名、これほど堂々と、名前で騙せるミステリはないだろう。同姓同名というものを実にうまく利用した作品だったが、自分がその立場にはなりたくない。

同姓同名
同姓同名
アーモンド

喪失と再生、そして成長の物語

アーモンド

生来脳内の情動を司る部位、扁桃体(アーモンドに形が似ている)が小さいため感情が乏しい主人公。ロボットと揶揄される彼と、対照的に情動爆発を制御できず非行を繰り返す「怪物」との奇妙な友情を軸に物語は進む。

韓国で若年層向けの賞を取ったことで世に出た小説だが、思春期の葛藤と成長というテーマの普遍性と、主人公の造形の上手さで国も世代も超えて広く読まれている。

雪が舞うクリスマスなどクールな文章中に漂う異国情緒や、ストーリーを劇的に転換点させる暴力シーンの迫力などに、映像作家でもあるという作者の力量を感じる。

真夜中のたずねびと

闇に遭遇した者たちの怪異譚

真夜中のたずねびと

殺人や暴力、虐待、震災などと舞台設定はいたって現実的だが、それだけに、人が人を見るまなざしに宿った幻想性を色濃く感じた。

孤児を「天使」として迎えることで過去に寄っていく老婆、弟が殺した少年という「スターのファン」になって加害者家族という境遇を生き延びる女性、自分がひき逃げした被害者の妻を「ミューズ」に絵を描くうち人格分裂していった男。

だれもが確かに生身の人間であり、そのことを読み手である自分も出発地点で確認しているのに、この世のものではない精神の境地に気付けば飛ばされていた。

汚れた手をそこで拭かない

取り扱い注意!研ぎ澄まされたミステリー

汚れた手をそこで拭かない

このタイトルは絶妙ですね。

5つの短編集。ふとしたことで起こるアクシデントや思ってもみなかった出来事。あたふたする人間の心理。その手を拭おうとすればすれほどますます汚れていく手。そこで拭かない!思わずほくそ笑んでしまうような、こわい話。

職人、教師、老人、俳優、作家、みんな違う職業、立場の人間が陥ってしまう落とし穴。さあ、どう這い上がって来るか。

いえいえ、芦沢さんだもの、這いあがった所をまた落とすことなんか朝飯前。

沖晴くんの涙を殺して

ありふれた日常と感情が愛おしくなる物語

沖晴くんの涙を殺して

余命一年の宣告を受け実家に帰った京香が出会った高校生の沖晴。彼は9年前に北の大津波で家族を喪い、命と引き換えに喜び以外の全ての感情を無くしたのだと言う。

いつもどんな時でも笑顔な沖晴。彼が京香と出会った事で一つ感情を取り戻す度に感情の代わりに与えられた能力を失っていく。その度に戸惑い怯える沖晴に一緒に気持ちを揺さぶられる。

最後にやっと泣けた沖晴くんと一緒に泣きました。

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